中山七里「境界線」

久しぶりの中山七里作品「境界線」読了。傑作「護られなかった者たちへ」では、東日本大震災で生活に困窮した弱者に対する厳しい生活保護行政の問題点を浮き彫りにした中山先生の、大震災をテーマにした第二作目の作品。主人公は前作にも出てきた宮城県警の笘篠刑事だが、ここでも真の主役は震災で親を亡くした鵠沼と五代という青年たち。

笘篠は震災で妻と息子を失ったが、震災から7年がたった時点で遺体は発見されず、未だ死亡宣告の申請はしていない。そんな笘篠の下に、妻の名前の免許証を持った女性の遺体が発見される。姿を消してどこかで生きていたのなら別だが、そうでなければ別人のはず。早速遺体を確認に行くがやはり別人。妻の戸籍を盗んでいたことが分かる。死亡事態は自殺と思われたが、本来の素性がなかなかわからない。そんな中、とある情報からデリヘルをしていたことが判明し、本来の名前が分かり、この女性の両親がかつて殺人事件を起こし、死刑が執行されていたことから、死刑囚の娘としての身分を棄てたいがために、震災の行方不明者の戸籍を何かの手段で買ったのではないかとの推理を笘篠は行う。それは、仙台市内の公園で発生した男性殺害事件で、本人の身元調査の過程で、同じように過去の自分を棄てて、新たに他人の戸籍を手に入れて生きていた人間が現れたことにより、一層現実味を生むことになる。笘篠はいずれも震災行方不明者の戸籍を手に入れていたことから、個人情報の漏洩を疑い、役所の下請け業者の社員が情報漏洩したことを突き止める。

こうした展開の中で、第四章の「孤高と群棲」で、高校時代の鵠沼と五代の関係が語られ、彼らがかつてやくざ相手に詐欺まがいの行為で大金を手に入れたエピソードなどが描かれ、彼らの中に震災の傷が残ったことを中山先生は描くことになる。

本作では、中山作品特有のどんでん返し的な展開はなく、かつ、偏差値最低の高校出身ながら、いとも簡単に五代が公認会計士になっているという、ちょっと考えられないような話があることも加えて、中山作品らしからぬ盛り上がりのなさを感じたのは私だけだろうか。もうひとひねりほしい作品で残念でした。特に鵠沼がどれだけ多くの戸籍を売っていたかなども語られず、この程度の犯罪で脅されて殺人をしてしまう鵠沼の姿など、首を傾げてしまうところもあり、残念な作品でありました。

今日はこの辺で。