伊兼源太郎「事故調」

「ぼくらはアン」に続いての伊兼源太郎作品「事故調」読了。

「事故調」とは、言わずと知れた「事故調査委員会」。志村市という架空の海辺に面した市を舞台に、人工海浜の陥没穴に転落した小学生の死亡事故調査委員会を正面から取り上げる話かと思いきや、本作の展開は、警察を自己都合退職し、今は志村市の広報課の職員となっている黒木が、事故の原因を突き止めていくという話。

黒木は、警察時代に師と仰いだ先輩刑事を犯人逮捕時に殺されたことを自分の責任と思い退職。現在は市役所広報課の職員となっている。そんな志村市で砂浜での小学生死亡事故があり、20年間市長を務める権田から、佐川部長を通して事故調の委員長となった佐藤教授の弱みを見つけて、市に有利な結論を出してほしい旨の脅迫的な依頼を行うような役回りをするが、被害者家族に会って、いかに愚かなことをしたかと反省し、その撤回を佐藤教授に申し入れるが、実際には事故調の結論は自然現象であり、市に責任がない旨の報告になるような雰囲気を感じて、自ら真相解明に乗り出す。そして、警察時代の協力者や、同期の刑事らの協力を得て真相に迫っていくという流れ。

事故が起きても市長が謝罪しないことから、「志村市は腐っている」の声も高まり、黒木自身がそれを痛感していく過程や、自分が退職した理由、更には上司の佐川部長が妻子と娘を自死で亡くしている事象などが語られ、最後はその佐川部長の長い長い復讐劇でもあったことが明かされるのは、予定調和的な展開か。佐川部長の存在が何となく小出しに出てくるだけながら、黒木を後押ししている表現になっており、もしかしたら佐川部長が絡んでいるのではという推測は誰もがするのではないかという展開。

自分が過去に犯したちょっとしたミスが、大事故につながりかねないことを警告するような話でありました。

なお、佐川部長の過去の仕事で部下が亡くなり、それが原因で妻や娘が役所の人間から疎外されるという話は、さすがに「そんなことがあるのか」と思わせる違和感を覚えました。

今日はこの辺で。