青木俊「逃げる女」

「小説を一冊でも書いたら死んでもいい」と友人の清水潔氏に語っていたという青木俊氏。その一冊目が「消された文書」でしたが、死ぬどころか次作「潔白」は前作以上にドキドキの作品、そして三作目の本作「逃げる女」は更に前作を上回るような痛快作。四作目が待ち遠しい気分です。

「逃げる女」は殺人現場の最初の通報者、久野麻美が執念で警察の追跡を交わして、殺人事件の真相、更には19年前のひき逃げ事件の真相を追う姿を描く。

久野麻美が逃げる舞台は北海道の札幌から旭川、網走、釧路、そして茨城、神奈川、東京と続く。この逃走劇がなかなかハラハラドキドキの描写で盛り上げます。麻美は殺人事件の第一通報者で、現場の指紋や足跡などの状況証拠から最重要容疑者とされるが、動機などの捜査は不十分。しかし、道警は麻美を犯人と断定し、身柄拘束に動くが、麻美は見事に逃走。そこから前記した逃走劇を繰り広げる。追うのは道警の生方刑事と女性の溝口刑事。生方は疑問を感じるものの、上意下達の警察組織にあっては逆らうことなく麻美を犯人と決めつけ溝口の疑問なども封じ込めて追うことになる。最後の生方が麻美に謝罪するが、警察組織の恐ろしさがここにある。麻美が殺したとされるライターで翻訳家の名倉高史は、19年前のひき逃げ事件を追っていて、当時の警察が犯人捜査をすることなく、捜査を中断した闇を突き止め、当時の捜査担当者の桐山茂と麻美と3人で真相を明らかにする計画だったが、それをされては困る人間から桐山は刑事現職中に罠にはめられ7年の刑に服し、名倉は殺されてしまう。出所した桐山と麻美は真犯人についに対面することになるのだが・・・・。

青木氏は「消された文書」で沖縄問題に切り込み、「潔白」では冤罪事件の闇を描いたが、本作では絶対に逮捕されないと言われる検事総長をはじめとする刑事司法の恐ろしい権力、そしてさらに恐ろしい米軍の存在が描かれ、それに立ち向かう麻美は、逃げる女ではなく、「追う女」であるとの最後の生方の言葉が的を射ていました。

読み応えのある作品で、今後の青木氏の次回作に期待しましょう。

ちなみに麻美の逃げた経路、札幌→旭川→網走→釧路は、昨年の9月に私が北海道旅行でたどった反対経路。釧網線の美しい景色の描写もあり、身近に感じた場面でした。

今日はこの辺で。