原田マハ「暗幕のゲルニカ」

原田マハさんは、須田に直木賞ノミネート4回で、本作「暗幕のゲルニカ」も2016年の第155回の候補になっているものの、未だに受賞はならず。最初の候補作「楽園らくえんのカンヴァス」が最も選考委員方はこう評価を得ていた感があるが、いずれにせよ、直木賞に最も近いところにる作家には間違いない。原田作品によく登場するのが美術館のキュレーターが主役となるストーリーだが、本作もその一環の作品。

本作の特徴は、現代に近い2001年の9.11ニューヨークテロ事件の直後のMoMA(ニューヨーク近代美術館のキュレーター、矢神瑤子さんが「ピカソの戦争展」開催のために、ピカソの代表作「ゲルニカ」を企画展に展示するために奮闘する姿を、そして一方で、ピカソが「ゲルニカ」を制作した時代、すなわちパリが占領される前後にピカソの愛人としてゲルニカ政策場面を写真でドキュメントとして撮影したドラ・マールとピカソのストーリーを交互に記載して、それが最終的にある写真で結びつくサスペンス要素も盛り込んだ長編作。原田さんの経歴で美術館勤務があり、一時MoMAに派遣されたこともあるということで、美術関係部門は最も得意とするところであり、今回取り上げたのがピカソ最大の傑作かつ問題作品でもある「ゲルニカ」だけに、力が入ったことでしょう。勿論瑤子さんは架空の人物で、9.11時に夫を貿易センタービルで亡くし、ピカソゲルニカには思い入れも最大級。戦前戦中のパリのドラ・マールは実在の人物ながら、スペイン内戦から逃れてきた富豪青年でピカソとどらを守り通すバルト・イグナシオは架空の人物。

9.11からイラク戦争までのアメリカ大統領や国務長官の名前が実名ではなく仮名にしているところはちょっと興ざめでしたが、瑤子とさんとドラ・マールの、いずれ劣らぬゲルニカへの思いを強く描写し、如何に偉大なる画家の一作品が反戦への強力な武器になるかを表現してくれました。

ゲルニカが当時パリで行われた万博のスペイン間の目玉だったことを初めて知りましたが、確かにゲルニカを最初に観た人は、ピカソ独特の抽象絵画でもあり、反戦を訴えていることを理解できなかったかもしれない。タイトルに「ゲルニカ」がなければ、そしてゲルニカの惨劇を知らなければ、余計に理解不能なのではないか。私たちは、今でこそゲルニカを、ピカソの戦争への怒りとして理解するのですが。

一枚の絵画を題材にして、これだけの長編作品をかける原田さんの底力を感じる作品でした。

次なる作品で、ぜひとも直木賞を獲得することを確信しております。

今日はこの辺で。