映画「空白」

9月30日(木)新宿ピカデリーにて日本映画「空白」鑑賞。タイトルは空白という軽いイメージながら、ストーリーは極めて重い映画。基本的にこの映画には「悪人」は出てこない。しかし、二人の人間の命が奪われ、一軒のスーパーが亡くなり、何人かの職が奪われるという悲劇が生まれる。殺人ではなく、スーパーでの万引きのしぐさを目撃したばかりに、発生する悲劇。誰も悪くないのに悲劇が生まれてしまう理不尽。松坂桃李が何度も口にする「どうしたらいいかわからない」というセリフがこの映画の主題ではないか。

「空白」というタイトルの意味を、私は女子中学生が万引きを疑われ、店長に事務所に連れていかれ、そして逃げるまでの空白の時間と捉えたのですが、結局その場面の真実は明かされないまま。実際に万引きがあったか否かは、その後に古田新太扮する父親が、亡くなった娘のぬいぐるみの中から「何か」を発見し、それを棄てる場面があったことから、想像するしかない。

とにかく、娘を失った父親が、その娘を執拗に追いかけた店長を許すことができず、これまた執拗に攻め立てる場面は、両者の演技の見せ所。松坂は「弧狼の血」シリーズでのやくざ顔負けの刑事役をやったり、「新聞記者」で頼りないキャリア官僚役をやったりと、超売れっ子の俳優で、その演技も素晴らしいの一言。

本作で最も大きな被害者は、乗用車で中学生を跳ねた若い女性。父親への謝罪を拒絶され、彼女もまた行き場を失って自殺するという悲劇こそが、この映画の重みを増している。誰も悪くないのだが、唯一悪いとしたら、娘をまともに理解しようとしなかった父親であろう。

今日はこの辺で。