佐藤究「サージウスの死神」

今年度上半期の直木賞を「テスカトリポカ」で受賞した佐藤究氏の初期作品、「サージウスの死神」読了。佐藤氏はデビュー当時は純文学から出発した方で、本作は2004年の作品で、群像文学新人賞を獲得している。しかし、その後鳴かず飛ばずで壁にぶち当たり、大衆文学に移行し、2016年以降江戸川乱歩賞大藪春彦賞などを獲得し、「テスカトリポカ」で初ノミネートで受賞したという経歴。したがって、本作は芥川賞的な作品で、なるほどそうだったのかという雰囲気を持つ作品。残念ながら大衆文学以降の作品未読につき大きなことは言えませんが、本作のような色合いを残しつつ、大衆文学としてエンタメ要素満載の作品なのでしょう。

本作の主人公である「俺」=華田克久は、デザイン会社勤務のサラリーマンだが、ある日ビルの屋上から飛び降りる自殺者と目があったことから、カジノでのルーレットの魔力に取りつかれ、友人や怪しいカジノの人間たちと付き合ううちに、平凡だった生活が一変していく。あとは不条理劇にも似た展開が綴られ、私の鈍い頭ではついていけない描写が続くことになる。ルーレットの数字が分かってしまうような魔力を備えるという内容は、まあ許される範囲かとも思うが、薬師寺という男とのゲームの場面が現実なのか夢想なのかもわからない展開に、どうもついていくことが難しかったのですが、200頁という適度な長さの小説は、長編が幅を利かす昨今、純文学的でよかったとの感想を抱きました。

今日はこの辺で。