中山七里「護られなかった者たちへ」

中山七里先生の問題作「護れなかった者たちへ」読了。中山先生の小説には、まず駄作はないのですが、本作が最高傑作の部類に入るのではないかという渾身の作品。単なるミステリーではなく、生活保護の問題点を抉り出す作品となっています。生活保護と殺人事件を絡めるという設定が、なかなか思いつかない、見事なストーリーテラーであり、最後のどんでん返しもお見事。真犯人は徐々に浮かんではきますが、それでも無理がないラストです。

生活保護については、このコロナ禍でも大きな問題となっていますが、申請の高い壁は親族照会。大三親等までに扶養義務があるという民法の古臭い規定がある生活保護法を縛っているのですが、核家族化が進んだ現代社会にあっては、何とも陳腐な規定。実際に親族照会して援助を申し出る親族はほんの数%という現実を反映すべきという議論も多く、厚労省の方針も変更しつつはあるものの、予算との関係で窓口では申請拒否・却下が絶えないとのこと。もちろん、不正申請は厳しくチェックすべきですが、ぎりぎりで申請してくる国民を見分ける役人の目が必要。一時話題になった北九州市の申請却下が話題になりましたが、却下数をノルマとするようなことは、憲法上許されません。

本編ですが、宮城県仙台市生活保護窓口である福祉保健事務所の課長が、手足を縛られ、餓死状態で殺害されているのが発見され、更に県会議員となっている元福士兼好事務所勤務の男も同じような状態で殺害される。宮城県警の捜査員が殺された二人の接点を探し出し、殺害動機を推定し、犯人を特定するが、実は真犯人は・・・・。

殺人事件を主題にしたミステリー小説には違いありませんが、主題は今の生活保護制度、更には日本の社会福祉制度の問題点をあぶりだすのが中山先生の目的ではないか。第二次安倍政権以降、アベノミクスと言って自分の成果を自慢して辞めた安部前首相ですが、最低限の文化的な生活を送る権利を有していない人たちは増えています。そんな中、生活保護費の削減政策は続き、「自助・共助・公助」をスローガンとする菅首相の登場で、生活保護がさらに高い壁となる心配がある日本。中山先生は、本書でそんな日本の姿を先取りしたような作品を作ってくれました。

ちなみに、このような社会問題(サラ・クレ問題)とミステリーを絡ませた傑作「火車」を彷彿とさせる小説でありました。

今日はこの辺で。