窪美澄「ふがいない僕は空を見た」

窪美澄さんの初期の代表作と言われる連作短編「ふがいない僕は空を見た」読了。5つの短編からなる本作の主人公は、皆さん顔見知りの関係者で、それぞれ単独作ではありますが、つながった話になっているところが面白い魅力となっている。

  • ミクマル:高校1年生の斉藤卓巳君は、ある女性からナンパされ、コスプレセックスにはまり込む。その女性は、「あんず」と名乗り、卓巳君はこの女性に好意を持つようになる。しかし、あんずさんは人妻で、ある日突然アメリカへ行くと言って姿を消す。卓巳君は、自分の子供を身ごもったのではないかと、一層恋慕が募るのだった。
  • 世界ヲ覆ウ蜘蛛の糸:「ミクマル」のあんずさんこと、里美さんは、自分をデブ・ブスと自己嫌悪する女性で、小学生から高校まで虐められるる存在だったが、大学生になって二重瞼にしてから男友達がたくさんできて、遊んできた過去があったが、ある男と知り合い結婚し、現在は義母から子供を作れとしつこく催促され、仕方なく妊活に励むが、そんな毎日に浸かれ斉藤君とコスプレセックスをするようになる。自分も夫も子供ができない体であることを知ってのこと。義母はそれでも諦めきれず、お金は出すからアメリカに行って代理出産しろと迫る。一方、夫は隠しカメラを仕掛けて、斉藤君とのコスプレセックスを撮影していたのだった。
  • 2035年のオーガズム:斉藤君と仲の良かった同級生の女性徒、松永七菜の家族は、ナナさんのお兄ちゃんが天才で、最難関の大学医学部に合格するほどだが、頭が良すぎて変な宗教団体に入ってしまう。ナナちゃんは斉藤君が好きでセックスしたいが、斉藤君はあんずさんが忘れられない。ナナちゃんの家族は、お兄ちゃんの問題で崩れかけていたが、ある日の豪雨でのできごとで、家族再生が見えてくる。
  • セイタカアワダチソウの空:物語全体で私が最も気に入った作品。斉藤君の友だちである福田良太君は、古い団地に住み貧困家庭。父親は自殺し、母親は家を出ていき、今はばあちゃんと二人で暮らすが、認知症が進み、良太君は生活費を稼いだりばあちゃんの世話をしたりで、正に困窮のヤングケアラー。そんな良太君にも、コンビニのバイト先の先輩でお金持ちの田岡さんは、勉強を教えてくれたりソーシャルワーカーを紹介したりと、神様のような人。同じ団地に住む同級の女性徒、あくつさんと不明になったばあちゃんを探す姿、母親に預金通帳を盗まれ、全くお金が無くなってバイト先の店長の財布からお金を盗みそうになる場面があり、それでも誰にも相談できない良太君の苦悩が何とも言えず苦しい。
  • 花粉・受粉:斉藤君の家は、父親が家出して、母親が助産院を経営。産婦人科医院ガスくなっている昨今、自然分娩を希望して助産院に来る妊婦を多くなっているという話が出てくるが、そんな忙しい母親だが、彼女にはかつて勤務した病院の副院長との不倫が発覚し、病院を首になり、助産院を開くことになるという過去があった。斉藤家もまた、未だに家を出た父親が母親に金をせびっているという家族だが、斉藤君のコスプレ姿を映した写真がネット上や紙の写真で拡散して、部屋に閉じ籠る彼にも、少しの光明が見えてくるのであった。

表題の「ふがいない僕」が誰なのかと言えば、やはり斉藤君であり、福田君では決してないはず。一突きになったのが、コスプレ写真を誰が拡散したかを特定していないこと。考えられるのは里美さんの旦那さんなのだが、この夫婦が実際にアメリカに旅立ったかも少し気になりました。

今日はこの辺で。