中山七里「切り裂きジャックの告白」

中山先生が、臓器移植を題材にしたミステリー「切り裂きジャックの告白」読了。

臓器移植や医療過誤は小説のテーマになりやすい題材ですが、中山先生は初めてか?

若い女性が相次いで殺害され、遺体から臓器一式が無残にも削除された姿で発見される。警視庁の犬養刑事と埼玉県警の古手川刑事がコンビを組んで捜査し、二人とも臓器移植を受けていたことが分かる。移植のコーディネーターの女性にドナー(提供者)とレシピエント(受領者)の情報を求めるが、法令を盾に情報が提供されず、3人目の犠牲者が出てしまう。結局コーディネーターから情報が提供され、同一のドナーから移植されていたことが分かり、最後の一人へのアプローチから事件解決へ向かうというストーリー。確かに臓器移植の場合は、ドナーとレシピエントの情報は秘密とされ、その責任をコーディネーターが持つ仕組みのようですが、犯罪被害予防の観点からもっと早く警察も動くべきだと思うのですが、その辺は?

さて、脳死での臓器移植が可能となったのは1997年10月に施行された臓器移植法ができてから。当初は本人の書面による意思表示と家族の意思表示を必要としたが、2010年の改正で本人の意思表示がなくても家族の承諾で可能となった経緯がある。本作では、ドナー本人の意思表示があり、家族が了承する場面が描かれるが、やはり家族としては当初複雑の思いを持つのであろうか?ちなみに1995年度~2020年度に行われた日本における移植手術は6764件ですが、脳死移植は669件(1997年~2019年)。圧倒的に多いのが生体移植で、中でも腎臓移植が最も多くなっている。

本作では交通事故死した若い体操選手がドナーで、心臓、肺、腎臓、肝臓を4人に提供し、そのうち3人が殺害される悲惨な事件。この事件から、脳死による臓器移植の賛否両論の激しい論争が起きる。心停止であれば起きない現象、すなわち臓器を取り出す手術時にメスを入れれば体がまだ反応するという事実から、脳死判定への疑義も描写される。

こうした社会問題を含んで展開されるところの中山作品の社会性が見いだせて、読んでいる方も勉強させられる。

最後は医療過誤の問題を含むどんでん返しが待っているのは中山作品の真骨頂。

今日はこの辺で。