染井為人「悪い夏」

染井為人作品三作目は、生活保護問題をベースに、それにかかわる人間の「悪」を赤裸々に描く「悪い夏」読了。

生活保護をテーマとした小説としては、中山七里の最高傑作ともいわれる「護られなかった人たちへ」があり、読んで感動したものですが、本作は登場人物のほぼすべてが、何らかの悪を持つ人間であり、最後はその悪人が入り乱れての喜劇的展開を見せるのがミソ。2017年の横溝正史ミステリー大賞の受賞は逃したものの、次点の優秀賞を受賞した作品。

主人公は千葉県のとある市の社会福祉事務所で生活保護ケースワーカーを勤める佐々木守。彼は真面目に生活保護受給者のフォローや新規受給者受付係として一癖も二癖もある人たちに接しているが、不正受給と思われる人のフォローアップで苦労する身。同僚の宮田有子は、佐々木の真面目さとはまた別に、正攻法で不正受給者に向き合う。そんな宮田が、先輩の高野洋司が不正を働いているのではないかと佐々木に相談し、その証拠集めに佐々木に協力を求めるところから、佐々木の転落が始まる。高野は確かに林野愛美というシングルマザーを脅迫して身体と金を貪っていることがわかる。佐々木は愛美に同情して、いつしか同棲する仲に。しかし、愛美もやくざの金本に脅迫され、佐々木を麻薬付けにして悪事を働かせる仲間にしてしまう。そこに、佐々木がフォローしていた受給者の山田吉男が絡んできてハチャメチャな展開に。最後の落ちは、宮田有子が、実は高野の不倫相手であったことまで暴露され、正に喜劇的な終末を迎える。

本作で作者が訴えることが二つある。一つは、本当に生活保護を必要としている古川佳澄というシングルマザーを、麻薬付けでまともに相談者に向き合えない佐々木が、いとも簡単に受給拒否してしまう場面。すなわち、本当に必要な人たちが救われていない現実。もう一つは、やくざの金本が佐々木に言う次の言葉。「一生懸命働いても生活保護世帯より安い賃金しかもらえない社会がおかしい。底辺の人間はこぞって生活保護を申請すべきだ。それが国民としての権利だ」やくざの言うことにも一理あるのではないか。

一時「自助→共助→公助」を声高に言った首相がいたが、最後の最後でも公助が高い壁になっている社会では救われない。

今日はこの辺で。