諸田玲子「其の一日」

諸田玲子作品は「氷葬」に次いで二冊目。本作「其の一日」は連作短編が4作からなり、連作の主題は、主人公たちにとっての重要な「一日」をめぐる話で構成されるもの。

「立つ鳥」、「蛙」、「小の虫」、「釜中の魚」の4篇から構成されますが、ここでは「釜中の魚」についての感想。

井伊直弼は、言わずと知れた幕末における幕府の大老であり、長く続いた鎖国を開国し、尊王攘夷派を安政の大獄で処罰し、最後は「桜田門外の変」で暗殺された人物。NHK大河ドラマの第一作目の主人公ともなった、花のある人物。「釜中の魚」は、井伊直弼が若かりし日に恋仲になった女、可寿江を主人公に、水戸藩の不穏な動きを察知して、安政733日の「桜田門外の変」の当日まで、彼女が井伊を心配して暗殺を阻止しようとする行動と思いを描きます。

江戸幕府の政治は、将軍を頂点として現在の閣僚級の老中が中心となって運営してきたのですが、大老職は臨時に老中の上に設けた職で、就けるのは井伊・酒井・土井・堀田の4家に限定されていたとのこと。大老はどちらかと言えば元老的存在で、いわば顧問役。従って名前が有名なのは井伊直弼ぐらい(大老格として柳沢吉保は必見派として有名ですが)。ペリーが来航し、日本の危急の時代であったがために、大老として幕府のかじ取りをせざるを得なかった背景があります。

歴史に「もし」は禁物ですが、あえて、もし井伊直弼が暗殺されていなかったら、幕末・維新の時代はどうなっていたのか。大変興味があるところ。安政の大獄で徹底的に攘夷派を弾圧・処刑した井伊直弼がそのまま力をもっていたならば?大変興味があるところです。

本題をそれましたが、本作の井伊直弼は、可寿江という女の昔の恋人、今の守るべき人としか描かれませんが、命を守れなかった其の一日を、不吉な思いで迎えるところで幕が下りました。

今日はこの辺で。