柚月裕子さんの佐方検事シリーズ最新作「検事の信義」読了。前三作とも佐方検事の真実を追求する姿を描く短編集ですが、本作も同じパターン。検察組織という枠の中で、実際には、このような正義感溢れる検事さんがいるのか、自ら調査して事件の真相を掘り下げる検事がいるのか、甚だ疑問ではありますが、柚月さんの願望も含めて、検事はこうあるべきとの思いが伝わってきます。
本編においては第三作目の「正義を質す」と四作目の「信義を守る」が印象に残りました。
「正義を質す」は、作品的にはそれほど感動モノではないですが、佐方シリーズと孤狼シリーズがつながったところ、および検察の裏金作りという汚い体質を告発した当時の大阪高検環公安部長事件を取り上げていること。広島の暴力団抗争に絡めて、城島県警の日岡刑事が顔を出して、孤狼シリーズがつながり、高検の公安部長が出てきて、環事件につながります。佐方自身は東北のとある県の地検所属のため、広島との結びつけ方がやや強引ですが、柚月さんとしては、こだわりがあって結び付けたかったのでしょう。若干お遊び的要素が感じられます。
本編の最高作は最後の「信義を守る」でしょう。老いた認知症の母を殺してしまった息子に何があったのか、殺してから逃げたという本人の証言は間違いないのかを、2時間という逃亡時間に疑問を持ち、真相に迫ります。刑事部で懲役10年の引継ぎを受けて、公判部では通常はその通りに審理を進めて求刑するようですが、その慣例を裏切り、検事の仕事を「まっとうに裁かせるため」との信念から息子の親子の本当の関係を導き出し、検事が執行猶予付きの求刑をするという前代未聞の裁判。検察組織に泥を塗ってしまった佐方は、これからまっとうな扱いを組織の中で受けていけるのかが心配になります。警察の捜査を否定し、地検刑事部に逆らった佐方の今後を柚月さんがどう描くのか、第5作目を期待しましょう。
今日はこの辺で。