村山治「安倍・菅政権VS検察庁 暗闘のクロニクル」

2020年1月末、黒川東京高検検事長検察庁法に定める定年年齢に達するため、退職準備中だったとされ、すでに送別会の日程まで決まっていたとの報道があったことを記憶している。しかし、何故か国家公務員法の勤務延長規定が適用され、そのまま東京高検検事長居残ったことから、騒ぎが大きくなった。当時の安倍政権が無理くりに閣議決定し、勤務延長を脱法的に適用し、なんとしても次期検事総長にしたかったとの憶測が流れ、国会での主要テーマとなった。主要な登場人物は安倍首相、菅官房長官、杉田官房副長官、稲田検事総長、林名古屋高検検事長、そして黒川東京高検検事長である。この顛末を、毎日新聞朝日新聞で法務・検察に関する取材を主にしてきた村山治氏がしたためたのが「安倍・菅政権VS検察庁 暗闘のクロニクル」。当然に村山氏の推測が大きい内容だと思うが、長年の取材をしてきた村山氏の推測部分は半分以上は当っているのでしょう。

村山氏は、黒川・林の両氏をいずれも超優秀な検察官であり、法務官僚と捉え、特に黒川氏については、無理筋の勤務延長はしたくなかった、検事総長にはなりたくなかったという見立てであるが、黒川氏を知る多くの人が言うように、黒川氏は優秀ではあるが、人間的には憎めない人柄であり、強引に政権のために検事総長にはなりたくなかったとの見立ては政界ではないかと私も考える。検察がときに暴走するのは、村木厚子さんの事件でもあったように、よくあること。その結果、小沢一郎事件や袴田事件などの冤罪事件でよく見られてきたこと。したがって、検事総長等の幹部人事が恣意的に政権が行うのはご法度なのは当然ながら、では、果たして現役の総長が後継指名するのが適切なのか、有力OBが関与するのが適切なのかも、いずれもNOであろう。村山氏は、やはり能力や実績を見定めて、検事総長コースというものを歩ませ、それに沿って昇進したものが、検察の総意となり、検事総長が自然に決まっていくのがよいという見解。大学の学長選の様に、教授等の投票で選ぶのも一考に値すると思われるが、どうでしょうか。

今回の騒動は、政権が河合事件や桜を見る会前夜祭を抱える安倍首相の恣意的、政治の私物化的動機を最大の理由と沿てあげている。確かに検事総長には、大きな権限が与えられているが、それを赤裸々に行使することが可能だったのか。当時の稲田検事総長は、河合事件には積極的に動いたが、桜を見る会は安倍を立件することができなかった。恐らくだれがなっても、例えば林検事総長がなっても無理なのではないか。

村山氏は、黒川問題には菅官房長官は深く関わっていないとの読みですが、学術会議会員任免拒否で浮かび上がった人事問題が示すように、菅が無理筋で法務省に定年の逃げ道を考えさせたのではないかと思っている。安倍は確かに桜の問題で窮地を脱したいとの思いが大きかったはずだが、菅もまた黒川を重宝に使っていたこと、そして林嫌いだったことから、積極的に動いたのではないかと思う次第。

それにしても、これだけ詳しく法務・検察と政権との暗闘を描くには、取材経験と人間関係模様や取材網が必要であろうことが想像され、労作と評価したい。

今日はこの辺で。