辻村深月「鍵のない夢を見る」

辻村作品の代表作でもあり、2012年に直木賞を受賞した5編の短編集「鍵のない夢を見る」読了。短編集の主人公はいずれも地方都市に住む若い女性。辻村さん自体が山梨県で育ち、大学も千葉だったので、若いころは東京には住んでいなかったはず。従って、地方都市に住む女性の気持ちは十分に分かっているのでしょう。と言っても、地方都市の鬱屈間をことさら強調した作品ではなく、女性の視点を強く感じる作品集。

「仁志野町の泥棒」は、女子の小学生児童からの視点で、大人の世界の不思議をのぞき見するような作品。同級の女の子の母親の泥棒癖と地方独特の寛容さのようなものが不思議に描かれる。

「石蕗南地区の放火」は、36歳の女性が合コンで出会った役場職員の男性に好かれるのですが、彼女自身は彼を敬遠している。それでも仕事のことを考えて一度だけ横浜に一緒に行くのだが、彼は町の消防団員でありながら、実は放火魔だった・・・・。36歳の女性の心理ってこういうものなのでしょうか。

「宮弥谷団地の逃亡者」と「芹葉大学の夢と殺人」は、いずれもどうしようもない男と付き合って、別れられない女の物語。一方はDV、一方は夢の幻想に取りつかれたどうしようもない男。そんな男とはすぐに分かれてしまえばいいのに、どうして別れないのか。それが女の心理なのか。いずれも男は殺人を犯す。

「君本家の誘拐」は、育児ノイローゼとなった若いお母さんの切実で苦しい生活の話。こちらは男に放浪されるのではなく、我が子の泣き声に翻弄される話。ただし、夫の育児協力がなく追い詰められる心理は暴力に等しいのかも。

直木賞選考会では若干意見が分かれたようですが、受賞の実力はその後の活躍からも申し分がないものでしょう。

今日はこの辺で。