鎌田慧「いま、逆攻のとき」

人権派ルポライターで知られる鎌田慧著「いま、逆攻のとき 使い捨て社会を超える」読了。今までにも、主に冤罪事件を扱った鎌田氏の著作を読んできましたが、今回はバブル崩壊後に深刻となった貧困問題をテーマに、特に労働者派遣法によって、労働者が商品化していき、人間として扱われないような社会を批判。あくまで弱い立場の人たちの側に立って、社会変革の必要性を訴えます。秋葉原殺傷事件などは、労働力の調整弁として、景気によって簡単に切り捨てられる派遣労働者が住宅を失う恐怖、生活費がなくなる恐怖などが、根本にあったことも実例としてあげていますが、まさにその通りなのでしょう。

本書が出版されたのは2009年で、リーマンショックのすぐあとの時期。後半では当時大量の派遣切りで住まいを失った方たちを集めた派遣村村長を務めた湯浅誠氏との対談もあります。

さて、今のコロナ禍はリーマンショック時以上の経済不況と言われており、既に大量の失業者を生み出しています。はたして派遣法は弱い立場の派遣労働者にとって、当時と比べて改善されているのか?法律の文面上は同一賃金同一労働の建前は取っていますが、結局は契約期間が過ぎれば派遣切りは違法ではなく普通に行われることになります。3年の制限が守られるのかも、大不況時には難しいのではないか。いずれにせよ、職種関係なくオープン化してきた派遣労働の範囲は縮小することはないでしょう。であるならば、もっとセーフティネットを広げるべきなのですが。

標題の「逆攻のとき」とありますが、企業内組合が経営より、正社員よりの主張しかできない中で、最も弱い派遣労働者等の非正規雇用で働く方たちのための「企業外組合」の声が大きくなっていることは、確かに喜ばしいことではあり、どんどん逆攻してほしいものですが、社会全体が非正規をなくす方向に行くことが最も必要であることは確かです。

今日はこの辺で。