薦田 伸夫「ある日突然犯人に」

弁護士で、松山市で起きた公職選挙法違反事件の弁護をされた弁護士の薦田信夫氏著「ある日突然犯人に 無罪判決の教訓」読了。

1990年の衆議院選、現在の愛媛県知事の中村時弘氏が初めて立候補した際、決起集会会場に駆り出された松山市民のうち、集会からの帰りのバスの中であったとされる現金供与事件。この選挙違反事件の弁護を行った弁護士の一人である薦田信夫氏が、警察・検察の取り調べの違法性を裁判での証人尋問を詳細に記して、その違法性を訴えた本書。

この事件についてネット検索するも、詳しい情報がなく、私自身も初めて知った事件。鹿児島の志布志事件は有名ですが、もう既に30年前の事件で、それほど話題にならなかった事件かもしれませんが、これもまた甚だ怒りがこみあげてくる警察の作り上げた忌まわしい事件である。

証人尋問を読む限り、既に事件として破綻しているにもかかわらず、検察は取り下げることなく裁判を38か月も続け、被告全員無罪となったもので、お粗末というか、何故ここまで罪のない市民を苦しめるのか、全く理解できません。志布志事件と同様、事件の端緒は明らかにならず、一刑事の情報源というだけで公表されることなく裁判は終わっています。バスに乗っていたとされた43名が厳しい取り調べを受け、誘導尋問も受け、体調も崩し、やむなくほとんどが刑事の言うとおりの自白調書を取られ、2人だけが最後まで拒否しただけ。それだけ自供というものの恐ろしさを感じます。たまたま裁判官が普通だったから無罪になりましたが、もしかしたら自供調書が証拠採用され、有罪になっていた可能性もあると思うと、非常に恐ろしくなります。現にたくさんの事件が、自白調書のみで冤罪が数多く発生していることは周知のとおり。

裁判が終わって、当時の警察署で事件を担当した課長が、無罪になったことに関して「裁判はゲームじゃけ」と言ったことが記されていますが、ゲームで事件を作られては、容疑者とされた方はたまったものではありません。

選挙違反事件の捜査は、選挙後短時間に捜査員を導入して、怪しい案件を一気に操作するとのことで、狙い定めた事件を取り下げることが難しいとも書いていますが、それは警察に事情であり、それを市民に押し付ける愚は、絶対に繰り返すべきではないのですが、この事件の10年後には志布志事件も起こります。

今回の河合事件は議員本人がお金を配っていることは事実のようなので問題ないでしょうが、この事件も受け取った側については控訴しないとのことで、松山の事件で自害にあった市民や一般市民から見ても不公平感は否めません。刑事司法はもっと公平・構成を貫いてもらいたいものです。

今日はこの辺で。