望月衣塑子・前川喜平・マーティン・ファクラー共著「同調圧力」

安倍政権批判を正々堂々と繰り広げている話題の望月衣塑子氏と前川喜平氏、およびアメリカ人のジャーナリスト、マーティン・ファクラー氏の共著「同調圧力」を読了。

まず3氏のそれぞれの主張を読み、最後に三者の座談会形式の主張で構成された本書。現在の日本のジャーナリズムや官僚の政権を中心とした権力への同調圧力が如何に形成され、どんな弊害をもたらしているかを知るうえで最高の著書です。

望月さんについては、官房長官記者会見での勇気ある発言が話題を呼び、現在の日本のリベラル系ジャーナリストの先陣を言っている猛烈ウーマン。その度胸と取材力には頭が下がります。記者クラブ制度と言う日本独自の制度で、所属する東京新聞も加盟していることから、少なからず恩恵は受けており、完全には否定しないものの、そこにはやはり馴れ合い的な風土が生まれ、大手メディアの記者は、それに染まっていることが大きな弊害となっていることは事実のようです。

前川喜平さんは今もっとも人気のある元官僚の知識人。全国のリベラル団体から講演会の講師に招聘され、モリカケ問題の本質や、教育行政について語っておられる方。彼の現役時代のモットーは「面従腹背」。官僚の世界では、いかに仕事をやらないか、いかに仕事を他省庁や他部署に振り向けるかなどが大きな仕事。すなわち、いかに仕事をしないかが役人の仕事であることを役所に入った時に学んだそうです。そしてもう一つは、出世のためには上司の言うことには逆らわないこと。そんな役所で、教育行政でやりたいことをやるためには課長以上職になり、自分の裁量で仕事ができるために、「面従腹背」を貫いたと言っています。しかし、面従腹背をできなかった痛恨事は、局長時代に下村博文大臣のもとで、教育勅語が学校教育でも使えるとの答弁をせざるを得なかったこと。大臣に逆らえないのは致し方なし、逆らっていたら事務次官にはなっていなかったでしょう。今の官僚たちが、政治家に人事を握られ、無理な法解釈までして安保法制や検事定年問題、モリカケで記録を廃棄するなどの不正を行っている現状が同調圧力そのものと言えるでしょう。

退職した後だとはいえ、今これだけ政権批判を堂々と言っているのは前川さんと古賀茂明さんぐらい。命の危険さえあると思うのですが、なかなかできないことです。

マーティン・ファクラーさんは、アメリカのジャーナリズムとの比較で、日本の記者クラブ制度などを批判しています。アメリカのメディアにあっても、ベトナム戦争イラク戦争など、政権からの偽リークをそのまま記事として戦争を肯定する世論形成した大きなミスがありますが、それの反省もあって、現在のニューヨークタイムズワシントンポストは調査報道が重視されているとのこと。その点では、朝日新聞が折角調査報道部門を作ったのに、吉田調書問題で調査報道の後退を余儀されたのは残念なことです。

また、アメリカの新聞はインターネットの普及で今は危機的状況を迎えており、紙ベースでは経営が成り立たない状況もあり、NTにあってはウェブ中心に拡大している。それに比べ日本の大手新聞社は不動産賃貸で稼いでいるので危機感がないとも言っています。

権力への同調圧力は、戦前戦中の翼賛体制に全面的に協力した日本のメディアが示す通り、非常に危険な兆候であることは間違いありません。私たち市民・国民が求めているのは、メディアが権力の正常なチェック機関として、暴走を許さないという姿です。戦争をする国になりつつある現状を決して許さないというメディアの矜持を期待したいものです。

今日はこの辺で。