宮部みゆき「地下街の雨」

久しぶりに読む宮部みゆき作品。「地下街の雨」表題作ほか全7編の短編集。宮部さんの作品は超長編が多くなかなか手に取らなかったのですが、文庫本があったので図書館で借りて読んだ次第。さすがに短篇でもいい味の作品があります。

最も印象に残ったのが「ムクロバラ」さん。家族にもデカ長と呼ばれる刑事さんが、かつて橋場さんという不運な人の事件に関わり、その橋場さんが取りつかれたようにデカ長さんのところに事件記事を持ってきて、捕まえてほしいとお願いすることが続く。橋場さんはかつて同僚たちと夜飲み会に参加し、そこで覚せい剤中毒者に絡まれ、誤って相手が持っていたナイフで刺してしまう。この事件はもちろん正当防衛で無罪となるものの、仕事から追われ、家族とも別れて不幸な生活をしている方。そんな橋場さんの話を真摯に聞き、何とか橋場さんを立ち直らせようとする話ですが、世の中には理不尽を抱えた人生を送る方がいることの悲しさを痛感する小説でした。

他には「勝ち逃げ」も味のある作品。55歳で亡くなった姉妹の一番上の年子さんは結婚することなく、謹厳実直に生きてきた方。そんな彼女にも実は思い切った恋愛の過去があったという話。胸に迫ります。

今日はこの辺で。