間川清「裁判官・非常識な判決48選」

弁護士である間川清氏著「裁判官・非常識な判決48選」読了。これを読むきっかけは、自分の娘を性的虐待していた愛知県の事件で、なんと無罪判決が出て、これを契機にした女性虐待に関するシンポジウムに参加した時に知った「青い鳥裁判」を知ったこと。娘への性的虐待に対する無罪判決を下したのが名古屋地裁岡崎支部で、同じく「青い鳥裁判」も同じ岡崎支部名古屋地裁はよっぽど非常識な裁判官が集まる裁判所なのかと、変な勘繰りまでしてしまいました。

さて、この「青い鳥裁判」は、妻が日常的に夫に虐待され、29年間耐えてきたのですが、いよいよ耐え切れずに離婚を求めた裁判。今では一般的になったDV被害による離婚ですが、この裁判の頃、すなわち平成3年ごろにはまだDV法ができておらず、決定的な離婚原因にはなっていなかったようですが、それにしても29年間も継続的に身体的暴力や人格を否定するような暴言を吐いていたにもかかわらず、岡崎支部の担当裁判官は、「今からでも幸せな青い鳥を見つけるチャンスがあるので離婚却下」という非人間的な判決を下したとのこと。全く持って信じがたいことですが、こんな裁判官がいたと思うと寒気がします。家族主義を高々と掲げる右翼的な発想以外の何物でもありません。妻は控訴し、結局控訴審で和解による離婚が成立したようですが、控訴審は本来一審を棄却する判決を無条件に出すべきだったと思うのですが。

本書は4章構成で、第一章は「この判決許せますか?」。この青い鳥判決他12話ですが、最も許せないのはこの「青い鳥判決」。さらに、そんなに古くない判決で、「認知症患者の事故に対して妻と別居の長男が賠償責任ありと判決した事件も許せないもの。これについては最高裁で賠償責任なしとなり、一安心。石原都知事の「ばばあは有害」発言も無罪となり残念でした。

第二章は「お気の毒ですが、笑っちゃう」。9判決ありますが、最も笑えるのは寄席での居眠り事件。原告は客席の真ん前で落語家の高座中に居眠り。落語家が気分を害して話を辞めてしまい、主催者側が客に退席をさせたことに対して賠償を求めた裁判で、賠償を棄却。居眠りはこっそりした方がいいようです。

第三章は「不思議!非常識!なんでこんな判決が?」編。17の判決がありますが、最も非常識なものは、タクシー運転手に対する「雲助判決」。タクシー運転手が強盗目的で乗客を殺害。これに対する遺族の損害賠償裁判の判決で、タクシー運転手は雲助まがいの者やとばくにより借財を抱える者がままいる・・・」との判決理由が書かれたとのこと。一般の数多くのタクシー運転手までも侮辱した判決理由は到底許容できません。京都地裁の裁判官の判決ですが、所長から叱責されたそうですが、叱責だけでよいのか。こんな非常識な裁判官が存在していいのか、大いに疑問です。

第四章は「これってゴネ得?」編。この中で注目すべきは「ギャンブルするために借りたお金は返済不要」。被告は原告からギャンブルのためにお金を借りたが、返してもらえずに起訴。原告はギャンブルのために貸した覚えがないと主張したが、判決では「知っていたはず。そうであれば違法なギャンブルのために金を貸すことは、その違法性を原告も認めていたはずで、であるから返済の必要なし」。これもどうも納得いかない判決。判決文がないのでわかりませんが、おそらく原告が貸すときに理由をはっきり聞かずにあいまいだったのでしょうが、貸したお金を返さなくてもいいという論理は納得いきません。

他にもおかしな判決がありますが、おかしな裁判官がいるものです。いや、裁判官だから余計おかしいのかもしれません。

最後に、最もおかしな裁判官は、最高裁(事務総局)に忖度し、白いものも黒(黒いものを白にするのはまだ許されるが)にしてしまう勇気のない裁判官ではないでしょうか。

今日はこの辺で。