池井戸潤「ノーサイド・ゲーム」

池井戸潤の最新作「ノーサイド・ゲーム」をワールドカップ日本大会開催中に読了。池井戸潤は銀行員出身とあって、当初は銀行ものが多く、半沢直樹ものはその典型。その後、主に中小企業と銀行を絡ませたような物語が多くなり、最近はスポーツと企業とスポーツ絡ませた作品もいくつか出てきました。「ルーズベルト・ゲーム」が野球、「陸王」がマラソン、そしてこの「ノーサイド・ゲーム」がラグビー。おそらく池井戸さんがワールドカップ日本大会に合わせて作ったのではないかと想像される作品。この作品も池井戸ワールド前回のエンタメ作品に仕上がっています。

今回の主人公は大手自動車メーカーの本社企画部から横浜工場総務部長に不本意ながら転勤した君嶋隼人。総務部長がラグビーチームのゼネラルマネージャーになる慣行から、ラグビーのチームおよびラグビー界の改革に乗り出す物語。今回の悪玉は本社の実力のある役員。プラチナリーグおよび日本蹴球協会という架空の団体を出してきて、このままではラグビーが企業のお荷物になるだけと考え抜本的なチーム改革と業界改革をしていく姿が描かれます。

架空とはいえ、日本蹴球協会は日本ラグビーフットボール教会を思わせる存在。この教会を徹底的に批判するところが本家の協会も頭が痛いのではないかと心配してしまいます。ラグビーは15人の先発とベンチ控えが8名、プラスアルファの選手とコーチを合わせると、関係者は80名近い想定。これだけの人間を抱えるには相当な人件費と物件費がかかるはず。小説では年間予算が16億円としていますが、選手はあくまで企業に所属するサラリーマン選手。

野球やサッカーのような高年棒の選手がいなくても、それだけの予算がなければならないため、チームを抱えられるのは大企業ばかり。世界的に見てもラグビーで高年棒を稼ぐ選手はいないようで、高くても1億数千万円とのこと。それであれだけの格闘技も毒の危険なプレーをして観客を興奮させるのですから、残念な業界環境です。是非ともいま日本にあるトップリーグを盛り上げて、ラグビー選手になる夢を与えてほしいものです。

話はそれましたが、この小説も最後は希望のあるラスト。日本代表の活躍と合わせてこの小説にも”あっぱれ”でした。

今日はこの辺で。