鎌田慧「死刑台からの生還」

ノンフィクション作家、鎌田慧著「死刑台からの生還」読了。戦後間もない1950年、四国香川県の財田村で発生した殺人事件で死刑判決を受け、34年後に再審無罪を勝ち取った谷口繁義。典型的な冤罪がいかに作られたか、そして奇跡的な出会いにより再審の道が開き、無罪を勝ち取るまでの経緯が、取り調べや裁判での生々しい場面を交えて描かれます。鎌田氏は弘前大学教授夫人殺人事件についても、ノンフィクションを書いているので、早速読んでみたいと思います。

さて、冤罪事件については、いかに冤罪が作られていくかについて、前回ブログで詳しく記述しましたが、財田川事件も全く同じ構図。そして、再審のきっかけについても、奇跡的な出来事があったこともまた共通性があります。

この事件での奇跡的な出来事とは、矢野伊吉裁判官との出会いでしょう。谷口氏が5年前に高松地裁丸亀支部宛に出した無実を訴える手紙を、赴任した矢野裁判官が見つけ、その内容の信ぴょう性を調べた結果、無実を確信するということがなければ、谷口氏は絞首台の露と消えていた可能性があります。矢野裁判官との出会いはまさに運命の分かれ道でした。そして矢野氏は再審決定の意思を固めるものの、地裁、高裁、そして最高裁の権威と圧力に屈した二人に陪席の直前の反対で再審を断念。裁判官を辞めて財田川事件再審のために裁判官を辞め、弁護士に転じ、警察、検察、裁判所への挑戦を開始します。こんなに正義感にあふれた裁判官が、今の最高裁支配下の司法機関に存在するのでしょうか。存在することを信じたいものの、所詮はサラリーマン裁判官、自分の将来と天秤にかければ自ずと答えはわかります。

それにしても、鎌田慧氏作品を初めて読みましたが、彼もまた反骨のジャーナリスト。冤罪事件や半原発運動、労働問題など多彩な著作があり、これからじっくり読んでいきたいと思います。

今日はこの辺で。