一穂ミチ「砂嵐に星屑」

「スモールワールズ」は一穂作品でも出色で感動しました。続いて一穂作品「砂嵐に星屑」読了。一穂さん自身が大阪出身で大阪在住ということで、大阪のテレビ局を舞台にした人間模様が4作の短編で描かれます。

(春)資料室の幽霊:大阪のテレビ局、なにわテレビが舞台だが、テレビ局は会社の正社員と、多くの契約社員、下請け社員によって番組が作らられていることはよく知られており、正社員とその他の社員では待遇面で雲泥の差がある。この短編に登場する人は、いずれも正社員。三木邑子さんは40代の美人アナウンサー。局の名物アナウンサーだった20歳も先輩と不倫関係になり、それが会社に知られることになって、東京に転勤させられ、その先輩が亡くなったころ合いを見て大阪本あ社に戻る。周りからは色眼鏡で見られるが、そんなことを気しながらも、アナウンス部の管理職として働く。そんな優子に、後の短編に登場する中島という先輩社員から、資料室に不倫相手の幽霊が出るという噂を聞く。邑子はそれを確かめるべく、夜の資料室に潜入。そこには同じように興味を持った新入女子社員がいて、以後二人で幽霊を待つ。初日からいきなり邑子の前に幽霊が現れるが反応はない。新入社員には見えない。きっとまだ成仏してないから幽霊となって現れるのだと話し合い、最後には成仏させることができるのでした。

(夏)泥舟のモラトリアム:中島はテレビ局の中間管理職。会社ではそこそこの地位にいるが、温厚な以外にとりえもなく、単に歯車程度と思っている謙虚な人。ただ、大学生の娘とは確執があり、2年近く会話もしていない仲。中島が熊本地震の取材で長期出張し、疲れ果てて帰宅した際、娘が“マスコミ取材のヘリが邪魔で捜索が難航したというニュースがあった”という言葉に、激高してしまったのが理由。

ある日の早朝、大阪で地震があり電車が普通となり、中島は徒歩で17kmの道のりを会社へと向かう。その道すがらに頭に浮かび上がるこれまでの人生。同期や同僚が次々に仕事の激務に疲れたり、自分のやりたいことの為、更にはテレビ局の仕事に嫌気がさしたりして退職していったこと、娘との関係、会社での自分の存在価値など。やっと会社に着いたらお昼時。途中で出会って別のみちに来た同期からももうすぐ退職すると打ち明けられる。彼が言うには中島には組織に必要な人間だから残ってほしいと言われる。帰宅してからは、娘とも和解できる目安が付くのだった。

(秋)嵐のランデブー:結花は契約社員でタイムキーパー(TK)を勤める。タイムキーパーは、番組進行上テレビ局ではなくてはならない専門職。由朗は天気予報会社から派遣されている社員。二人は何でも言える気安い仲で、部屋をシェアすることになった。だが、由朗はゲイのため、結花が彼を好きになっていても、恋人にもできないし、結婚もできない仲。何度か結花はアプローチするが、由朗はその都度拒否。結花は欲求がたまり、同じテレビ局に勤務する男とホテルに行くが、遊ばれた気持ちになり由朗の優しさに気づくのだった。

(冬)眠れぬ夜のあなた:晴一は下請けのADだが、中島から番組内10分間のコーナーをピンチヒッターで作ってくれないかと頼まれ、自身がないながらも引き受ける。そのコーナーは、ある人物のインタビューなどでその人に人生を描くもの。対象は既に決まっており、マイナーな漫才師、並木広道の物語。並木は会社勤めをしていたが、投資などで余裕ができた段階で辞めて、今は施設などを中心に回って相棒の人形を相手に漫才をしている人物。晴一は、並木のどこに焦点を合わせるかで悩みつつ、自分が下請けの先が見えない境遇で、恋人からもそれが理由で別れを告げられ、自分の人生詰んでいると否定的な考えばかりしている30代。そんな晴一は、並木が阪神大震災で弟を失い、その弟を人形に見立てて漫才をしていることを知り、かつ局の仲間からのアドバイスで番組を作り上げていく作品。

「スモールワールズ」ほどの面白さはないのですが、特にテレビ局におけるヒエラルキーの中で悩む晴一の物語には共感しました。

今日はこの辺で。