伊吹有喜「雲を紡ぐ」

伊吹有喜作品は初めて読むのですが、本作「雲を紡ぐ」で直木賞候補にもなったことのある女流作家。

主人公は山崎美緒さんという高校2年生の女性徒。学校でのいじめから不登校になり、部屋に引きこもっている。父親の広志さんは家電メーカーに勤める技術者、母親の真紀さんは私立中学の英語教師。父親の会社は経営が不安定で自分もリストラの不安がある。母親もまたクラスのいじめ問題に悩み、SNS上で中傷されイライラが募る。娘の不登校が一層両親の不和を深め、家庭崩壊のピンチにある。そんな中、母親から強く言われたことから、逃げるようにして父親の故郷の祖父を尋ね、暫く置いてもらうことに。祖父の鉱治郎はホームスパンの制作者で、この世界では先生と呼ばれる人。かつて美緒が祖父母からもらったホームスパンのショールが大好きで肌身離さず持っていて、興味を抱いていた。

美緒さんは確かに母親が言うように人間的に弱い部分があるかもしれないが、そんな美緒を祖父は暖かく迎え入れ、美緒が興味を持ったホームスパンづくりを教えることに。

本作は、手作りのホームスパンづくりという職人仕事の内容まで詳しく作中で説明してくれたり、盛岡の街の魅力を披露してくれる。ちなみに、昨年盛岡の街を散策した際に入った中津川沿いの「ふかくさ」というカフェも実名で出てきた。草に覆われた小さな魅力的なカフェで、そのほかにも魅力的なカフェの名前が出てくるので今度行ったときにはカフェ巡りも楽しそう。

さて、物語は終盤に入り、美緒はこれから東京に戻るのか、盛岡でホームスパンづくりの職人さんになるのか。悩みに悩んだ末、後者の道を選ぶ。但し通信制の高校を出て、大学まで行くことを念頭に。そしてやっと母親も娘の選択に理解を示し、夫婦の仲も何とか離婚に至らず、何とか家庭崩壊を免れる。

「雲を紡ぐ」とは、羊毛を雲に例えて、糸を紡いで、染色して製品に仕上げていくというホームスパンの制作過程を表したもので、粋な表題でした。

今日はこの辺で。