馳星周「美ら海、血の海」

馳星周氏は、「不夜城」など、いわゆる闇社会の物語が多いと思っていましたが、直木賞受賞作の「少年と犬」などのヒューマンもあり、多彩な分野の作品を積み重ねています。本作「美ら海、血の海」は、沖縄戦を言う戦争を描いた作品で、これもまた読ませる良い作品。

沖縄一中鉄血勤皇隊という少年部隊に属した14歳の真栄原幸甚少年が、終戦の近い沖縄地上戦を篠原中尉率いる部隊の先導役としての任務を負い、敗戦を知るまでの厳しい逃避行を描いて、当時の太平洋戦争への怒りを描きます。

幸甚は、2年先輩の金城一郎とともに先導役を担い、沖縄南部へ向かうが、その間に圧倒的な火力を誇る米軍の空爆を受け、指揮官や先輩、同僚を失っていく。指揮官のいなくなった部隊は組織の体がなくなり、伍長や軍曹と言った兵隊たちからのいわれのない鉄拳もくらい、ただただ食料を求める餓鬼部隊と化していく。そんな中で金城は日本人部隊の人間から銃撃を受け、やがて死亡。途中で出会った2歳上の敏子さんと二人で海岸沿いの壕に身を潜め、海藻を主食として何とか生きながらえる。彼らの最大の悲劇は、日本が降伏した8月15日以降も、敗戦を知らずにただただ、鬼畜米英、捕虜になるなかれといった教育のために、白旗をあげることもできなかった姿。敏子さんと具志老人を壕に残して、食糧を確保しに行ったとき、アメリカ兵が壕を発見、敏子が自爆してしまうという悲しい現実。ただただ戦うことのみ教え込まれて日本軍や天皇を信じさせられた悲劇である。

金城亡きあと、幸甚少年が敏子さんを護るために成長していく姿、飢えに苦しむ姿、戦争への憎しみを募らす姿が極限の中で描写され、非常に感動的な作品でありました。

「少年と犬」も東日本大震災熊本地震が描かれていましたが、本作でも最初と最後に東日本大震災が描写され、そこに80歳近くになった幸甚が、石巻の惨状を目にし、そこから沖縄戦での経験が描かれるというスタイルになっていますが、これもまた構成的にインパクトがありました。

今日はこの辺で。