歌野晶午「D坂の殺人事件、まことに恐ろしきは」

歌野晶午作品は「葉桜の季節に君を想うということ」以来となり、暫くご無沙汰しました。

本作「D坂の殺人事件、まことに恐ろしきは」は、表題作を含む7編の短編が収められ、いずれも江戸川乱歩の有名な小説をベースにしたパクリ的な一面を見せるものの、歌野氏らしい趣を持った作品群です。

「椅子?人間!」は江戸川乱歩の有名な「人間椅子」がベース。涼花さんは売れっ子女流作家だが、その作品はかつての恋人とのいわば共作。というよりもアイデアは恋人が考えたようなもの。しかし二人は5年前に別れ、涼花さんは最近スランプ気味。そこへ別れた恋人から脅迫的な連絡がある。涼花さんは既に違う年の離れた高級官僚と結婚しており、別れた恋人を避けるが、恋人もしつこく、実は涼花のお気に入りの椅子に入って涼花を見張っているいたのだった。そして涼花は包丁を出して椅子を一突き。そこから血が噴き出すが、そこに入っていたのは夫だった。

スマホと旅する男」は極めて現代的な置き換え。ベースは乱歩作の「挿絵と旅する男」。長崎観光に来た私は、スマホを常に見ている男と知り合う。その男が言うには、幼馴染の女性が今や有名なアイドルとなっており、いわゆる追いかけ俗になって彼女と握手する機会を作っているが、彼女からは拒否されていたが、今はスマホで連絡しているとのこと。実は男は彼女を殺して、彼女の家臣とスマホで話しているとのことだった。

「Dの殺人事件、まことに恐ろしきは」も乱歩の「D坂の殺人事件」がベース。私は渋谷道玄坂近くのラブホ街で探偵の真似事をしていた際、小さな公園でサッカーボール遊びをしている少年に出会う。彼と親しくなった矢先、公園の前にある薬局で殺人事件があり、私と少年は犯人探しを始める。少年は大人びて積極的に犯人を推理するが、私は少年の行動を不審に思い、もしかしたら少年が犯人ではないか?との思いを強くするが、少年は犯人ではなかった。

「お勢登場を読んだ男」は、年が離れたテレビ局の若いプロデューサーとして活躍する妻が外で働き、自分は認知症の妻の父親の面倒を見る身分。そんな彼が「お勢登場」を読み、その父親を長持ち=衣装ケースに閉じ込めて殺すことを考え、失敗して自分がケースに閉じ込められることに。スマホで妻に連絡するが、それが仇となってしまう。

「赤い部屋はいかにリフォームされたか?」は「赤い部屋」がベース。殺人事件を扱う芝居の舞台上で、観客参加型の殺人事件が発生。そこには紛れもなく血が流れるが、実はこれは偽装の観客騙しの設定。ところが最終日の終幕場面では実際に殺人が実行され、警察やっ救急隊員まで登場し、観客は驚嘆。しかし、実はこれもまた観客騙しの芝居でありました。

「陰獣幻戯」は乱歩の代表作でもある「陰獣」をベースにした作品。「彼」は学校の教師で現在は副校長の役職があり、表面上は真摯だが異常な性癖がある。そんな彼に由貴さんという女性が現れ親しくなる。その由貴さんから何者かに手紙で脅迫されていると相談を受けるが、その脅迫者は彼であった。彼と由貴の間にはLGBTの関係があり、由貴は殺され彼は殺人者として捕まる。

「人でなしの恋から始まる物語」は「人でなしの恋」という短編小説がベース。「わたし」は一騎という男の妻でありながらカッキーと呼ぶ男と浮気。そのカッキーは人形とおしゃべりする変態男で、わたしはその人形に嫉妬して人形を破壊、カッキーはそのショックで自殺。わたしはスマホのゲームに夢中になり一騎からDVを受け殺害。3年の刑を終えて出所し、名前を変えて生活するために70歳の老人と結婚。その老人が暗号解きに励み、一攫千金が目の前に来たと思いきや、既に何者かが持ち去った後。それを持ち去ったのは建築現場で働く男だったが、その中身はバブル崩壊で倒産した証券会社の株券であったという落ちは傑作でした。

今日はこの辺で。