浅田次郎「母の待つ里」

浅田先生の作品も久しぶりで、本作「母の待つ里」は昨年2022年に単行本としてはこうされた最新作。

世界有数のカード会社が日本で試験的に実施している「ホームタウンサービス」は、35万円の年会費を払っているプレミアム会員向けの、ふるさとの擬似母親との会話を楽しんでもらおうとする特別なサービスで、一泊二日で50万円の高額料金が必要。したがって、これを体験できるのはかなりお金に余裕のある方たち。本作で顧客となるのは大手食品会社の、独身の男性社長の松永さん、製薬会社で要職を務め、定年離婚された室田さん、女性医師の古賀さんの三人。皆さん60歳そこそこの年齢で、既に母親は亡くなっており、母親との第二の思い出作りのために、申し込んだ方たち。主催者側の体制は、岩手県のある村に擬似母を始め、何人かの役者さんのような方を用意し、故郷に帰ってきた息子や娘を歓待し、擬似母は顧客を本当の息子・娘のように親身に話しかけることを徹底している。そしてその三人の顧客は、何故かこの擬似母であるチヨさんの、演技とは知りつつ、本気で思ってくれる姿に陶酔してしまう。三人とももう一回リピートし、更にその印象を深め、室田さんなどは、自分はここに引っ越すから一緒に暮らそうとまで言い出す始末。

そんな酸に届くのは、チヨさんが亡くなったという訃報。三人はとるものもとりあえず、村に向かってチヨさんとの別れを惜しむ。

稀代のストーリーテラーである浅田先生が本作で言いたいのは、例え偽物の母親ではあっても、その真摯さに胸を撃たれてしまう人間の母性本能へのあこがれなのではないかと思った次第。

今日はこの辺で。