道尾秀介「透明カメレオン」

道尾秀介さんは、どの章から読んでも話が通じてしまう不思議な小説「N」が最近の傑作でしたが、本作「透明カメレオン」はちょっと古い2015年に刊行された作品。

主人公の恭太郎さんは放送局に一般職で就職し、その声がDJ向きということで、深夜番組のJDを担当する方。彼は容姿に自信がなく、子供時代から目立たない性格で、今も30過ぎながら、なかなか女性徒付き合うことができない引っ込み思案な男。そんな彼は、ほぼ毎日番組終了後に「if」というスナックによるのが楽しみ。そこには毎日同じ顔触れが集う不思議なスナック。

ある日そのスナックに20代と思しき女性が「コースター」と叫んで飛び込んでくる。そこで彼女が恭太郎の声を聴いて、いつもラジオを聞いて大ファンなのですという。容姿に自信のない恭太郎は、たまたまみんなマスクをしていることから、隣のレイカさんに恭太郎になってくれと頼み、ややこしいことに。その女性は三梶恵と名乗り、レイカを恭太郎と信じ込んで帰っていく。そして、翌日再び恵さんが訪れ、みんな私を騙していたことはお見通しとして、彼女の作戦に協力させられる羽目になる。恵さんは父親を倒産に追い込んだ近藤という産廃業者への復讐を企んでいるとスナックの人達には思い込ませるが、実は父親自身が復讐を企んでいるため、それを止める算段をしていたのが本当の話。恭太郎さんは鋭い読みでそれに感づき、奥多摩の闇の産廃処理場にまで追いかけて、ひと騒動。

道尾さんがこの作品で訴えたかったことは何なのか?ifに集う人たちはみんなつらい過去を持っていて、恭太郎もまた親族3人を失う悲しみを背負い、そんなみんなが団結力を発揮して、同じ悲しみを持つ恵みを、危ない橋も渡ってでも助けたいとして行動する姿なのと、恭太郎が恵に逢った時から恋心を抱き、それが恭太郎を別人のごとく強い人間にしたということではないかと察した次第。

今日はこの辺で。