大門剛明「テミスの求刑」

大門作品五作目は、検事と検察事務官心理的葛藤を描いた「テミスの求刑」

田島亮二は津地検のエース検事で、東海最強の割り屋と言われる自供を引き出す名人検事。そんな最強検事が、かつて取り調べて自供させた事件の犯人が、獄中で自殺。父親が人殺し検事という抗議の電話を受けたのが事務官の平川利菜。平川は田島を尊敬しているが一抹の不安を覚える。なぜなら、その事件で殺された被害者は、平川の父親であったのだ。平川は加害者とされた沢登健太郎の父親に会いに行き、父親に健太郎は獄中で自殺し、最後まで無実を訴えていたといわれる。平川は健太郎の裁判で、死刑を望むと訴えていたのだ。

そうした中、健太郎を弁護した黒宮弁護士が殺害され、田島が刃物をもっているのが防犯カメラで捉えられ、田島は姿を消し、犯人は田島とほぼ確定される状況となる。検察内部では検事の不祥事の為、田島が死んでくれればいいとの話までされる有様。田島は最も信頼がおけると考えた平川に電話連絡し、地裁庁舎のカギを開けておくように頼む。平川は悩みに悩んで田島を信じることにしたかと思ったが、直前に恋人の村上刑事に連絡し、結局田島は御用となるが、犯行を否認し、肝心の黒宮の事務所での出来事には黙秘を貫く。否認のまま裁判が始まり、田島の後釜として着任した新エースの滝川検事と、冤罪事件のスペシャリストの深町弁護士の戦いが始まり、その間に立って平川は情報を探って深町にもそれを伝える。二人の闘いは、最初から田島の無実を前提としているような様相で、田島が誰をかばっているかに焦点が絞られるような展開。犯人は平川の父親を殺した真犯人の先輩警察官であり、田島は最初からその名を叫び続けていたのだ。そして、田島は自分が自供させた健太郎が冤罪であり、その父親に当日刺されて、それを隠すために暫く姿を消していたのだった。

本作での平川利菜の行動は、検察事務官ながら自ら調査してその情報を弁護士に流す危うい行為をしているが、これは組織的には保守的な検察に許されるのかは大いに疑問ではあるが、最初から田島が無実であることは想像できるものの、最後まで読ませる魅力は持っている作品でありました。

今日はこの辺で。