大門剛明「シリウスの反証」

大門作品四作目は、これまた冤罪事件を扱った「シリウスの反証」。

東山佐奈さんという弁護士資格を持つ大学の准教授が立ち上げた冤罪事件を雪冤するプロジェクト「チーム・ゼロ」のメンバーが、4人の親子を殺害した強盗殺人事件の冤罪を晴らしていく過程が描かれます。親子4人の殺害というと、再審が始まった袴田事件と同じで、大門さんも袴田事件を意識したのでしょう。

チーム・ゼロに吉田川事件で死刑が確定した宮原死刑囚から、自分は無実との手紙が届く。(実は後になって、登場する関係者に一人が死刑囚の名を騙っていたことがわかる)が、チーム・ゼロの老練なメンバーの反対を押し切って、佐奈が冤罪事件として調査していくこと決まり、若い弁護士である藤嶋と安野が中心になって調査を始める。一方、佐奈は独自に単独で調査を始めて、二人の若手にはっぱをかけながら、次第に冤罪の可能性が大きくなっていく過程が描かれる。事件の関係者として、当時死刑を求刑した検察官で、今は検事正となっている稗田、死刑判決を下し、現在は法務大臣となっている鈴木、指紋鑑定した警察官や、死刑囚の息子、殺された家族の中でただ一人生き残った娘さんなど、多彩な人たちが登場して、主に決め手となった凶器の指紋の再鑑定をめぐって再審の可能性を探っていく展開。佐奈は当時の検事に、自分は真犯人を知っていると告げる場面があるが、佐奈が子供の頃郡上八幡のお祭りに来ていた時に犯人を目撃しているという背景があることがわかる。しかし、読者としては、これはいかにも偶然過ぎる内容ではないかと首を傾げる部分。そんな佐奈が何者かに殺害される。犯人はチーム・ゼロに冤罪を訴えたが取り上げてくれなかった人が自殺し、遺族宛に佐奈の名をかたって死者を冒涜するような手紙が届いたことから、父親が佐奈に刃を向けた結果。しかし、佐奈の名を騙って誰が手紙を書いたのかも解明していない。私は吉田川事件の関係者が書いたのではないかと推測したが、謎のままですっきりしないところ。

最終的には指紋鑑定が行われ、凶器の指紋が警察のデータベースに残っていた宮原以外の何者かの指紋と一致したことで、宮原の無罪が確定する。指紋が一致した何者かが誰なのかは、最後の藤嶋と安野の会話から判明するのだが、これも綱渡りの行為。

物語自体は面白く、すいすい読ませてもらいましたが、信じられないような偶然が語られるのには、ちょっとがっかりした次第。

今日はこの辺で。