東野圭吾「しのぶセンセにサヨナラ」

東野圭吾さんは1985年に「放課後」で江戸川乱歩賞1999年に「秘密」日本推理作家協会賞2006年に「容疑者Xの献身」で直木賞を受賞していますが、この作品は乱歩賞と推理作家協会賞の間に書かれた作品で、「浪花少年探偵団2」を新装版として文庫化されたもの。

「しのぶセンセにサヨナラ」は、この作品を最後に浪花少年探偵団を卒業した意味を込めているのでしょう。東野作品はほとんど読んでいるつもりですが、「浪花少年探偵団」は読んでおらず、しのぶ先生ともはじめてお目にかかりました。そのしのぶ先生を主人公とした短編ミステリー6篇が納められ、軽いタッチのミステリーが展開します。

各作品の詳細記述は今回省略しますが、「しのぶセンセの引っ越し」が最も記憶に残る作品なので若干解説。シチュエーションとして思い出すのが「容疑者Xの献身」。しのぶセンセの住むアパートの隣の部屋に住む母と娘とろくでもない男。母は男を殺すしかないと考え、娘が世話になっている祖母のような女性に相談。その女性が男を正統防衛と偽って殺すという展開。女性は母親にアリバイ作りを指示するなど、容疑者Xの展開とそっくり。作家はかつて書いた作品のモチーフを発展させて、新たな傑作を創っていくんではないかと想像した次第。しのぶ先生と周辺人物のキャラクターも好感が持てました。

それにしても、巻末の本書の発行履歴が出ていますが、1996年発行の旧版文庫は2011年までに38刷、2011年発行の新版が2019年までに15刷。一冊で終わってしまう本が多い中、東野さんの本の人気がわかります。

今日はこの辺で。