逢坂冬馬「同志少女よ、敵を撃て」

逢坂氏のデビュー作ながら、アガサクリスティー賞を満点で受賞したほか、、本屋大賞を受賞、直木賞候補にもなった記念すべき作品「同志少女よ、敵を撃て」読了。

時は1942年~1945年、おまけに1978年が出てくるが、第二次世界大戦中の独ソ戦が舞台。イワノスカヤ村という小さな村で暮らす18歳の少女セラフィマが主人公。彼女は狩猟の技能に優れ、更に頭脳優秀なため、村で初めてモスクワの大学に進むことが決まっている。しかし、ドイツ軍が攻めてきたことから人生が一変。村は家族ともどもドイツ軍に全滅となり、セラフィマだけが運よく訪れたソ連軍の狙撃者、イリーナに助けられ、セラフィマはイリーナに従い、狙撃訓練校の生徒となる。生来の狙撃技術に加え、村を全滅されたという復讐心からめきめきと頭角を現し、1年弱の訓練を経て実戦部隊に参加。

訓練校の訓練は厳しく、当初の13名が5名しか残らず、したがって皆精鋭。しかし、スターリングラード攻防戦とケーニヒスブルク攻防戦で敵に撃たれ2名が死亡。残ったのは3名の女性狙撃者と彼女たちを教えたイリーナだけという厳しい戦いが繰り広げられる。

セラフィマは、自分の母親を撃ったドイツの狙撃兵、イェーガーを探し出して打ち殺す執念を燃やし、必死に敵兵を狙撃しながら生き延びていく。

ついに、ケーニヒスブルク(現在のロシアの飛び地、カリーニングラード)の戦いで、ドイツ狙撃兵のイェーガーと対峙し、彼の狙撃に成功。ただし、イェーガーはスターリングラード占領時にロシア人女性、サンドラを愛すようになる人間の顔をした狙撃兵。

セラフィマもまた最終的に90年ものドイツ兵を狙撃して殺す戦果を挙げるが、戦争への煩悶が続く。幼馴染で婚約者ともいえるミハエルが、ケーニヒスベルグの戦勝でドイツ人女性を弄ぶ姿を目にして、彼を射殺してしまう。このままでは彼女も軍法会議ものだが、イェーガーは最後に彼女をかばう証言をして射殺される場面もある。

ソ連は100万人の女性兵士が参戦したとされるが、戦後の軍隊は男中心に復活し、イリーナとセラフィマはイワノスカヤ村に帰り、村の復興に貢献するものの、次第に周辺と疎遠になり、同じく生き残ってパン工場に勤務したシャルロッテとマーヤとの手紙のやり取りが唯一のコミュニケーションとなる。

シャルロットからの手紙はマーヤが64歳でなくなったという知らせ。もう一通は「戦争は女の顔をしていない」の作者であるスベトラーナ・アレクシェービッチからの取材の手紙。二人は過去を語るために取材を受け、村の人達とも交わっていこうとするのでした。

490ページの長編で、セラフィマや仲間の戦闘場面が盛りだくさんで、緊張する場面も多数織り込まれているが、細かいところは飛ばし読みで何とか読み終わった次第。

本作はロシアのウクライナ侵攻前の2021年10月に発行され、今でも版を重ねているが、ある意味ソ連=ロシアという構図で読むと、独ソ戦は侵略者のナチスヒトラーと戦う、正に祖国防衛戦争だが、今の状況はロシア・プーチンが侵略者で、ウクライナは祖国防衛で必死に戦っている。ウクライナのナチ勢力と戦うというプーチンプロパガンダ、大ロシア=ソ連復活の帝国主義的思想はヒトラーに類するのではないか。プーチンは今スターリンを再評価しているとの情報もあるが、スターリンもまた独裁者で数千万人を反逆者と見立てて殺害したと言われる。スターリン崇拝者にならんとするプーチンに、祖国防衛戦争に挑んだソ連女性兵士(=今のウクライナ兵士)の心意気を伝えたいものです。

今日はこの辺で。