薬丸岳「神の子」

薬丸岳「神の子」

薬丸岳の上下巻、都合950ページにも及ぶ長編エンタメスリラー「神の子」読了。小説宝石に2008年1月から2014年5月にかけて連載された長編作品で、単行本にあたり大幅修正を加えた作品。これだけ長期にわたって連載される作品も少ないが、特に2008年1月号に第一回が掲載されて以降、翌年2009年1月号まで空白期間があるのも謎めいているが、理由は分らない。

さて、本作を読むにあたって、上下巻950ページあるため、長くて持たないかなあと思って読み始めたのですが、読み始めるとその面白さにくぎ付けになり、実質3日間で読み終えてしまいました。最終版の幕切れ以外は、非常に面白く読むことができました。

主な登場人物は、

町田博志:家庭環境から母親が出生届を出さず、無戸籍のまま育ち、たぐいまれなる頭脳を生かして、エピローグでは室井のもとで振り込み詐欺のシナリオライターをつとめ、第二章では、殺人の罪で少年院に入院し、1年間で高校卒業認定までの知識を付け、少年院から出た後は、少年院の教官であった内藤の紹介で前畑製作所の女性社長が身元引受人になり、工場を手伝う傍ら、京北大学に入学し、後に会社を立ち上げる為井、繁村などと出会う。いたってぶっきらぼうな性格だが、小沢稔という知的障害を持つ男を大切にかばう人間。後半にかけては為井の会社を陰で支えることになる。

小沢稔:町田に支えられる知的障碍者で、室井から命令されて町田が殺そうとするが、町田は思いとどまり、小沢が伊達を殺す。小沢は町田から金をもらい姿を消すことに。その後、小沢をみんなが探すことになる。

為井純:大手ドラッグストアチェーン社長の長男で、京北大学の学生。彼は父親から経営能力なしとされ、会社の後継者は弟の明が指名されている。為井は繁本の発明した合成樹脂に興味を持ち、これを売り出すための起業を思いつく。町田に協力を求めて起業は成功し、大会社へと成長途上にあるが、終盤に思わぬ落とし穴が待っている。

夏川晶子:為井が起業する会社に参画する京北大学の学生。町田に思いを寄せるが、町田からは相手にされず。為井が結婚を申し込むが、彼女はアメリカに留学。帰国後はあっと驚くスパイでありました。

繁村和彦:京北大学の学生で変人発明家。彼の作った唯一の成功作品である合成樹脂が、為井が起業し成功する元となる。

内藤信一:町田が入院していた少年院の教官。町田には手を焼かされるが、彼の本性を見抜いていき、前原製作所の女性社長、前原悦子に身元引受人になってもらう。彼自身は教官を辞め、今は警備員をしながら、町田の背後に付きまとっているムロイの正体を暴くべく、探偵のような活動をしている。

前原楓:前原製作所の娘で、最初は町田に反感を抱くが、次第に町田に惹かれていき、内藤と一緒になって探偵のような危険な活動をしていく。

磯貝、雨宮:室井のもとで振り込め詐欺などを行い、町田と3人で少年院からの脱走を試み、失敗。磯貝はその際交通事故で両手を失い、町田が義手を製作し磯貝を支援。雨宮は室井からの命令で小沢を探すが見つからず、逆に姉の美香を何とか室井から解放するべく、室井に懇願する。

室井(ムロイ):本名は木崎一郎。町田と同じく知能指数が高く、自分と同じような能力を持つ人間を発掘し、一方では施設で暮らす子供の足長おじさんになるが、一方では巨悪となっていく。

こうした登場人物が、町田を中心にして物語を形成していくが、最終版の町田と室井の対決場面は、室井がALSという病にかかり、完全対決にならない幕切れとなり、若干の失望を味わうが、それまでのストーリーはそれぞれの登場人物に個性を持たせ、非常に楽しめる内容でありました。

今日はこの辺で。