下村敦史「絶声(ぜっしょう)」

体調が悪いため、区民体育館のスポーツジム通いが中断し、体育館のカフェでの読書もしないため、読書量が減ったこの2週間。やっと読み終えたのが下村敦史「絶声」

すい臓がんになった資産家の父親が失踪して7年が経ち、兄妹3人が失踪宣告を求めて家裁に申請。あと数時間で宣告になる直前に、父親本人のブログが更新され、まだ生存している可能性が出てくる。子供たちはそれぞれ遺産相続を大いに期待している状況だったが、一時中断でガックリ。父親は長男と長女にはこれまでにもさんざん事業資金と称して援助しており、次男が後妻との子供で、あらぬ疑いをかけて後妻を追い出した経緯があり、遺産を次男に残すべく遺言にしたためていたことが分かる、しかし、その次男も偽遺言作成で相続権を失い、遺産は福祉施設へ寄付と相成るラスト。

本書の特徴は父親のブログの更新状況。普通に読めば時系列に何の疑いも浮かばないが、家裁調査官の真壁は、鋭く時系列に疑問を持ち、その謎を解く。長女が雇った家政婦代わりの愛子さんという女性と、ブログに出てくるA子さんという女性。当然に同一人物と思うのであるが、実は別人。A子さんは、かつて父親の堂島太平が、後妻の浮気相手と疑い、狡猾な手段で自殺にまで追い込んだ男性の娘。そして、時系列的にブログはこの娘が太平の命を受けて逆順に更新したもの。読み返してみると、確かに逆から読んでいくと話の筋が通っていることが分かる内容。太平は自分が陥れた男の娘に贖罪のため会いに行って、そこで倒れてしまい、その後数年間その娘に世話をされていたという展開が正直に読めるから不思議。こうしたトリックをよく考えだすなあと、感心した次第。

それにしても子供から死を望まれる親の不幸は最悪なもの。こんな親にはなりたくないし、こんな子供にもなりたくないものである。私が後者になることはもうないのですが。

今日はこの辺で。