青木俊「消された文書」

青木俊作品は、ちょうど1月の旅行時に「潔白」という冤罪事件を描いた作品を読んで以来2作目。青木氏はテレ東の元ジャーナリストで、巻末解説の清水潔氏が書いているように「一度は小説を書きたい」といって書いたのが本作「消された文書」。2016年に出版されているので、森友事件以前ながら、文書管理のずさんさが垣間見えてきた時代背景時期でもある。

本作の舞台は、基地問題で本土政府と対立する沖縄。いくつかの米軍不祥事事件、尖閣をめぐる中国との軋轢まではノンフィクションに近い部分があるが、その後の展開はスケールが大きくなる。尖閣諸島に上陸訓練した自衛隊と警察の舞台が襲撃され、多数の死者が出る事件が発生。その事件の犠牲者となった女性警察官の妹が、事件の真相に迫っていくという展開。その後には要人の暗殺事件も数件発生し、日本政府・米軍・沖縄県、更には中国も絡ませて壮大なスケールで話が進む。「消された文書」というのが何を指すのか?一例は尖閣で多数の死者を出した事件関係の文書、そしてもう一つが尖閣の領有を証拠づける中国、明時代の「冊封史録・羅漢」の中の文書。壮大なスケールの物語の要因が、この「冊封史録・羅漢」のありかを突き止めるところに割かれていることから、後者であるのが普通ではあるが、端緒としては前者が発端になっていることから、迷った次第。

さて、話は沖縄独立が、今まで虐げられてきた沖縄の最後の道であるという事件首謀者の夢が、正夢になるところで終了するところが壮大である。勿論非現実的であるのは間違いないが、今のような負担を強いられている沖縄県民が県民投票したら、半数以上の得票があるのではないかと思った次第。と同時に、ロシアの侵攻を受けたウクライナが欧米からの軍事支援を受けられない弱い立場であるのと同じ構図が、沖縄にも当てはまるような気もいた次第。

今日はこの辺で。