佐藤究「テスカトリポカ」

 

2021年上期の直木賞受賞作、佐藤究氏の「テスカトリポカ」をやっと読了。読了というより、斜め読みでやっと読み終わったという形。ちなみに「テスカトリポカ」は、アステカ文明の守護神のような存在というべきか。

佐藤氏はアステカ文明を相当研究したのでしょう、文明の底辺にある呪術的な要素を小説の主要な部分に据えて、それを犯罪に結びつける手法をとったのか。何しろスペイン語の表現を漢字のルビにするところが多く、カタカナのルビはほとんど覚えられないので、漢字のまま読み進めたため、作者の意図からは外れたかもしれない形のなりました。

メキシコには確かに麻薬カルテルが存在し、その力は相当のようですが、それを日本に持ち込み、最後は子供の心臓を生きながら移植するという、おぞましい犯罪行為が行われるという、とにかくすさまじい描写がこれでもかこれでもかと出てきます。最後は主人公と思われるコシモが、9歳の少年を助ける場面で救われるのですが、そのコシモにしても、最初にバスケット少年として登場するものの、中段では全く現れず、後半になって大ボスのバルミロの息子のような存在として出てきて、犯罪を犯す一人となってしまう展開は、もう少しどうにかならなかったのか?直木賞選考委員の選評の中で、浅田次郎氏が「登場人物の各々が当たり前の人間感情を欠く」と述べる通り、人間ドラマと視点は全くなく、犯罪小説の匂いだけが強い小説になっているところは残念であり、私には共感するところがなかった次第。選考委員の伊集院静氏の選評は、「最後まで小説として認められなかった」「小児の扱いがこれほど安易になされて、文学の品格は問われないのか、と今も思っている」と辛らつだが、私もこれには共感するところ大であった。

佐藤氏には、ぜひとも佐藤さんらしい人間ドラマの小説を書いてほしいものである。

今日はこの辺で。