東野圭吾「怪笑小説」

東野圭吾の懐の深さを改めて感じさせる9編の短編集「怪笑小説」読了。本格推理小説の名手である東野ですが、こういった軽い調子の短編を書けるのがすごいところ。我々がどこかで感じていることを題材として、これだけのエンタメができるとは。

どれも素晴らしい作品なのですが、私が特に気に入ったのが、最初の短編「鬱積電車」。電車に乗ると、ほとんどの人は座ってゆっくりしたいもの。そんな心理をあけすけに乗客に語らせているのは痛快。最近歳を取ってシルバーシート中心に空席を探している私などは、周りの乗客からどう見られているのか。思わず恥ずかしさがこみ上げてきました。

「おっかけバアさん」は、杉良太郎のような中年殺しの役者・歌手のおっかけになってしまった貧しいバアサンの悲喜劇。でも、振り込め詐欺にあうよりは未だましかもしれませんが。

最後の「動物家族」は、極めつけのブラックコメディ。家族を動物に例えている中学生は、両親・兄弟から邪魔者扱い。おまけに同級生からいじめにあい、逃げるところがない。そしてついには爆発してしまうという恐ろしい話。

「しかばね台分譲住宅」などもバブルで高い家を買ってしまった住民の悲劇が内包されており、東野さんの観察力に感服した次第。

今日はこの辺で。