河合香織「選べなかった命 出生前診断の誤診で生まれた子」

非常に重いテーマを扱った河合香織著「選べなかった命  出生前診断の誤診で生まれた子」読了。身ごもった子に障害があるか否かを診断する出生前診断。医療科学・技術の進歩により、ダウン症の子が生まれることをほぼ100%的中させる出生前診断が可能となり、特に高齢出産の女性が受信するケースが増えており、診断の結果陽性の場合は90%が人工中絶しているという現実があります。

河合氏が今回取材したノンフィクションのテーマは、出生前診断を受けた女性が、医師の見落としで陽性にもかかわらず陰性と回答したため出産し、結果生まれた子がダウン症で、かつ合併症で出生後3か月で亡くなったことに関して、訴訟で医師を訴えたという事案。女性が医師を訴えたのは、医師が間違わなければ、おそらくは中絶していたであろうこと、および、3か月とはいえ生まれた子どもが苦しんで亡くなったことに対する子供への謝罪。

誤診を訴える医療訴訟は世間にざらにあるのですが、出生前診断の誤診での裁判は初めてということで、随分話題にもなったようです。勿論、誤診に対する慰謝料は認められてしかるべきでしょうが、生まれた子供がダウン症で、かつ合併症で苦しんで亡くなったことに関しては、医師に責任はないはず。それをあえて付け加えた女性の心を探るために河合氏が取材を掘り下げました。

この訴訟には、当然に障害者団体等から大きな批判があり、訴えた女性も相当苦しんだようです。1996年まで残っていた優生保護法は、不良子孫の出生を防止するため、不妊手術を本人同意なしにできたもの。今日的には憲法違反に匹敵する悪法ですが、20数年前までは存在しました。これによって強制的に不妊手術をされた方が今やっと政府によって賠償されることが決まりましたが、いわゆる優生思想が罷り通っていた時代でした。出生前診断自体が、この優生思想からきているのは実態からも明らかですが、誤診によって障害者を出産してしまったということを認めることは、現に生活している障害者の心を深く傷つけることにもつながり、批判されるのは当然でしょう。

訴えた女性や弁護士さんには相当なプレッシャーだったと思いますが、河合氏も結論を出している訳ではありません。勿論結論を出せる人はいないでしょう。

読んでいて、この重いテーマに、頭の中も重くなりました。自分に置き換えればどうするのかと。

著書の中では多肢に渉り取材していますが、中でも保子さんと言う女性がダウン症の子供を里親として育てており、自分の子供のように愛情を注いでいる場面には驚きと同時に感動しました。

裁判の判決は、誤診に対して1,000万円の慰謝料が認められましたが、3か月で亡くなった子供への謝罪については認められませんでした。

今日はこの辺で。