セクハラ発言と密室人事

五輪組織委員会の森会長の女性に対する不適切発言を行い、その謝罪会見でも不遜な態度をとり、世界中からの非難に耐え兼ねて、ようやく辞任表明。そして、不祥事で辞任した者が後継指名するという、再々の不適切行為も判明し、批判がさらに大きくなった。

問題となったのは、2月3日の日本オリンピック委員会JOC)臨時評議員会での、次の三つの発言である。

  • 女性っていうのは競争意識が強い。誰か1人が手をあげて言うと、自分も言わなきゃ

いけないと思うんでしょうね。それでみんな発言されるんです。

  • 女性の理事を増やしていく場合は、発言時間をある程度、規制をしないとなかなか終

わらないので困ると言っておられた。だれが言ったとは言わないが。

  • 組織委員会に女性は7人くらいおりますが、みなさん、わきまえておられて

 

簡単に要約すれば、「女性は競争意識が強く、誰かがは発言すれば自分も、自分もと発言しだして、会議の時間が長くなる。(男を見倣って)発言を控えるよう、わきまえてほしい

 

この発言があった会議の場では、誰も不適切発言を指摘せず、逆に笑いが起きたとのこと。

ジェンダー平等度が世界的に見て極めて低い日本ならではの現象で、この事案を教訓に男女平等社会を進めてほしいものである。

 

森発言で私が最も注目したのは「わきまえる」という表現。これこそが、過去から現在に至るまで、日本社会に蔓延する悪弊ではないかと考える。

国語辞書的には、

・物事の違いを見分ける。物事の道理をよく知っている。自分の立場を自覚する。

などなど、決して悪い意味ではないが、森氏の発言にある「わきまえる」は、

「場の雰囲気を察して、自分を抑え込む」

ことを美徳するもので、これは決して古い年代の人間だけの問題ではない。連綿と続く日本の歴史の中で受け継がれてきた慣習であり、これこそがジェンダーフリーを妨げ、多様性を受け入れない社会を形成しているのではないか。憲法14条の精神は、いまだ実現していないと言わざるを得ない。

憲法14条 すべて国民は、法の下に平等であって、人種、信条、性別、社会的身分又は門

地により、政治的、経済的又は社会的関係において、差別されない。

 

もう一つ指摘しなければならない。問題発言で辞める森会長が後継会長を指名したことである。これで思い出すのは、彼が首相になったいきさつである。森氏の前の首相であった小渕氏が脳梗塞で倒れ、続投困難な状況から、当時の自民党の5人の実力者、森喜朗幹事長本人、青木幹雄官房長官村上正邦参院議員会長、野中広務幹事長代理、亀井静香政調会長が集まり、「密室」で森氏が指名され、首相就任に至ったことである。結果として、森内閣は国民の支持を得られず1年の短期政権で終わったのであるが、そんな「密室」の記憶があったかのように、森氏は川渕三郎氏を今回後継指名しようとした。森氏の退場はこの一事をもってしても、当然の結果であるといえよう。

今日はこの辺で。

韓流ドラマ「SKYキャッスル」

韓国の学歴社会は日本とは比べ物にならないほど顕著であるらしいことはよく耳にする。そんな韓国における、高学歴を目指す家族たちの姿を描いたTVドラマ「SKYキャッスル」全36回をNetflixにて視聴。

SKYキャッスルとは、お金持ちが住む高台にあるお城のような豪邸を意味するが、正に舞台はそんな高級戸建て住宅が集まったところに住む、いわゆる上流階級家族。主人公家族はソウル医科大学を首席で卒業した医師の父親と母親、娘二人。母親は、実は普通の庶民階級出身なのですが、医師と結婚し、娘を父親と同じソウル医大に入学させることを至上命題としているモンスター教育ママ。娘を何とかソウル医大に入学させるべく、高額を払ってコーディネーターと契約し、徹底的な対策を取っていく。しかし、そこには落とし穴が待っていた・・・・。主にこの家族のほかに3家族が出てきますが、喜劇的な要素を含みながらも、シリアス場面もふんだんにあり、韓流ドラマの面白さを満喫させます。

ただ、とにかく韓流ドラマは普通70分×16回、このドラマは40分×36回の長丁場。外国ドラマの場合は字幕が出るので、途中からは1.2倍、慣れたら1.5倍の速さで視聴して時間短縮。1.5倍速でも違和感なく見られるところに気づき、今後はこれを多用していく予定。

あくまでドラマではありますが、SKYキャッスルはすごい豪邸で、部屋の中もお城並み。住んでいる家族は、それぞれではありますが、医者や大学教授がそんなに韓国では高額所得者なのか?と疑問も感じさせる内容。ある程度実際の社会階層に沿っているとするならば、なんとも生き難い社会でもあります。親や親族からこれだけのプレッシャーをかけられているとすれば、なんともかわいそうな子供たちである。

今日はこの辺で。

 

 

映画「KCIA 南山の部長たち」

197910月に、かつて大統領を長期にわたって勤めた朴正煕大統領が韓国中央情報部(KCIA)トップであった金載圭に暗殺された事件が発生し、衝撃的な事件として記憶がある。この事件を題材にした韓国映画「「KCIA 南山の部長たち」を213日(土)、シネマート新宿にて鑑賞。期待していただけに、映画の中身は残念ながらいまいち。イ・ビョンホンの渾身の演技は見ものではあるが、空回り感が否めず。

この事件の構図は、明智光秀による織田信長が暗殺される本能寺の変に似ていると感じた。すなわち、朴正煕も1961年の軍事クーデターで実権を握り、1963年から1979年までの16年の長期にわたり大統領職にあったのであるが、クーデター時の盟友であったのが暗殺犯のKCIA部長、金載圭。しかし、次第に疎んじられ、暗殺時の宴会では相当罵倒されたようである。さらには自分が後継者になるはずが、ライバルが現れ、自分の身が危うくなる悲運を妄想。こうして暗殺に至る過程は、何となく信長と明智を連想させる。

この暗殺事件によって自分に実権が来ることを想定したのであるが、軍部に支持が得られず軍によって逮捕され、次の全斗煥大統領という軍事政権が誕生していく。韓国の民主化が実現するのは1987年までの歳月を要することになる。

この映画は、あくまで実話をもとにしたフィクションで、実名は使っていないが、ほぼ実際の事実に基づいて作られている。さすがに、朴正煕の娘である朴槿恵が大統領在任中ではできなかった映画と思われるが、強権政治化朴正煕の下でその姿を見てきたはずの娘が、実際には軟弱政治家であったのは歴史のいたずらか。

今日はこの辺で。

 

中山七里「能面検事」

中山七里の検事ものミステリー「能面検事」読了。まだ続編はできていないようですが、個性的な検事、不破俊太郎を主人公とした犯人捜しのミステリーで、連作短編形式の小説。新人の女性検察事務官、惣領美晴の目から見た不破の活躍を描いている。

若いころの苦い経験から、どんな場面、どんな人に対しても決して表情を崩さない不破検事。上司や他の捜査機関や法曹関係者におべっか、忖度する法曹関係者が増えている中で、誠に立派な態度。とある事件から、大阪府警がずさんな証拠管理を行っていることに気づき、府警を追い込んでいくため、警察関係者や上司からプレッシャーを受けるものの、決して屈せず、真実を追い求めていく姿は痛快、思わず快哉を叫びたくなる展開。

警察や検察で横行している、あるいは横行した裏金作りなどを念頭に、中山七里先生が作り上げた虚構の物語ではあるものの、大阪地検であった村木事件に係わる証拠改ざん問題も触れており、大阪府警を実名で上げて徹底的にその暗部を描いていることから、中山先生自体に府警からクレームが来るのではという心配までしてしまうほど。こういった小説を書く際には、警察にも了解を取っているのかどうかわかりませんが、横山秀夫が「D県警」などと仮名を使うのに反して、リアリティがありました。個人的には、御子柴弁護士よりも不破検事ものの方が、すんなり入り込めるような気がします。

ついては、是非とも不破検事もののシリーズ化を期待したいものです。

今日はこの辺で。

 

有森隆「巨大倒産」

経済ジャーナリストの有森隆著「巨大倒産 絶対潰れない会社を潰した社長たち」読了。

世に大企業と呼ばれる企業はたくさんあるが、いかに大きな企業でも、経営のかじ取りをする社長の役割は極めて重い。そんな社長の経営手腕によって、大企業が倒産する姿がままみられるのであるが、本書はそうした社長のとった行動や意思決定によって倒産に追い込まれた9社を取り上げ、どういった経緯で倒産したのかを興味深く分析したノンフィクション。

取り上げられているのは、車のエアバックのトップメーカーのタカタ、大昭和製紙、造船メーカーの佐世保重工業、ブレハブ住宅のミサワホーム、百貨店のそごう、商社の安宅産業、流通のセゾングループ、船会社の三光汽船、そして最後にシャープ。

確かに倒産の理由が全て企業トップの経営判断の誤りにあるわけではないのだが、やはり決定的に影響するのが経営ミス。昨今ではコンプライアンスがうるさいなか、経営ミスだけではなく、トラブルの事後対応などで失敗するケースも多いが、やはり倒産は社員や関連企業の社員の生活を脅かす事態であるので、社長の重責は極めて重い。

タカタはリコール隠しと事後対応のミス、大昭和製紙は企業の私物化、佐世保重工業は、坪内氏に責任を押し付けるのはかわいそうながら、独裁が招いた結果、ミサワホームは、社長に物言う大番頭がいなくなったこと、そごうはイケイケどんどんの出店の結果、安宅産業は創業家の公私混同、セゾンは父親のカリスマ性との齟齬、三光汽船は、これまたイケイケ戦略と金融の絡み、シャープはオンリーワン戦略の誤り。

経営派がいかに難しいかがよく理解できる著作でした。

なお、本書の中でも何回か登場する児玉誉士夫が、企業間の争いごとの調停役として暗躍していたことが語られています。現代ではコンプライアンスに引っ掛かり、ばれたら大変なことになるのでしょうが、戦後社会の違った暗部として印象深く読ませてもらいました。

今日はこの辺で。

 

映画「ヤクザと家族 THE FAMILY」

2月6日(土)、TOHOシネマ新宿にて、日本映画「ヤクザと家族 THE FAMILY」鑑賞。「新聞記者」を撮った藤井道人監督のオリジナル脚本で、暴対法施行以降のヤクザ社会の現実を映し出す。Yahooレビューが4.5近い作品ですが、その評価に劣らない、救いはないものの、素晴らしい作品でした。

主人公を演じるのは、こういった作品にうってつけの綾野剛。父親も暴力団であったが、殺され、自分は決して暴力団には入らないつもりながら、チンピラ生活している主人公が、暴力団に絡まれ瀕死の状態から、舘ひろし演じる暴力団の組長に「家族」的な愛を感じて組に入る。数年たち、幹部的存在になったものの、自分の子分が殺されたことからその仇を打ちに乗り組むのだが、兄貴分がナイフで仇を刺し殺す。その身代わりを買って14年の刑を受けるまでが前半。出所したときには暴対条例が施行された後で、ヤクザが生きにくい時代に入っており、かつての組員は脱退して残るは数人。組長も病で入院。組長から足を洗えと言われかつての後輩の勤める産廃会社で働くことになるが、その後輩と写った写真がSNSでばらまかれてしまったことから、すべてが得悪い方向へと進んでしまう。あなたが現れなかったら、先輩が現れなかったら、そして自分が現れなかったら。

暴力団が指弾されて当たり前ではあるが、足を洗っても世間は許してくれない現実がのしかかり、救いのないラストである。

貧困や差別から、行き場所のない人間がヤクザ社会に迎え入れられるケースが多いとのことで、必要悪ともいわれる暴力団であるが、彼らへの偏見は、組を抜けても一生残ることを身に染みて感じる作品だった。

それにしても、綾野剛の演技は見事の一言。間違いなく代表作呂なるでしょうが、ヤクザが主人公であることから、映画賞レースに勝ち残るか否か。ここでも暴対条例が関係するかもしれない。

今日はこの辺で。

映画「なぜ君は総理大臣になれないのか」

下高井戸シネマにてドキュメンタリー映画「なぜ君は総理大臣になれないのか」鑑賞。

東大法学部を卒業し、志を持って総務省のキャリア官僚として入省したものの、省利省益、前例踏襲、OBが幅を利かす官僚の世界に嫌気がさし、一念発起、国会議員選挙に立候補し、ここでも党利党益が優先される政治の世界で何とか日本を良くしようとする政治家、小川淳也氏を追った政治ドキュメンタリー。ドキュメンタリーとしては出色の出来であり、ドラマ以上にドラマ性を感じさせるドキュメンタリーでした。

小川氏の選挙区は香川一区で、2003年、32歳の若さで衆議院選に挑むものの、地盤・看板・カバンのない中、民主党公認で出馬したものの、最初の挑戦は落選。2005年の衆議院選は選挙区では敗れたものの比例復活で、晴れて国会議員となる。しかし、ここで味わうのは、比例復活の肩身の狭さ。2009年の選挙では、政権選挙と呼ばれ民主党ブームで初めて選挙区当選。その後は2012年、2014年、2017年とも、比例復活当選。なぜ選挙区当選できないか?これは同じ選挙区に地盤・看板・カバンを持つ平井卓也氏がいるから。平井氏は現在デジタル改革担当大臣として入閣しているが、四国新聞西日本放送などを経営する四国の名門一族で、その牙城は盤石。特に前回2017年選挙では小池新党騒ぎに巻き込まれ、希望の党から立候補せざるを得ない状況下、小差の接戦を演じて比例復活したのは、むしろ称賛されるべきと思われる。

本作では、2017年選挙を中心に、大島監督が長年カメラで追い続けてきた小川氏の人となりや政治信念、家族や支援者の苦労を切実に描いており、政治家が地盤・看板・カバンがなく選挙を戦うのがいかに大変なことか、家族や両親、支援者がいかに大切かを最大限に印象付ける。

私自身、小川氏のような方が総理大臣になってほしい思いがあるのですが、今の二世・三世議員が何となく偉くなっていく政治状況は、彼のような逸材を殺しているとしか思えない。例えば、枝野立憲民主党党首を貶すわけではないが、小川氏のような人材を党首にして選挙を戦えば、議席増につながると思うのですが。

本作中で、小川氏自身が政治家には向いていないのではないかと思い悩む姿、家族みんなが政治家なんかやめてほしいと思っている姿は、胸が痛くなる思い。何とかこうした人材を活かしていく道はないのか?

「小川純也、君こそ総理大臣にふさわしい人材なのだ」と言ってあげたい。

今日はこの辺で。