誉田哲也「感染遊戯」

誉田哲也氏が練りに練って作ったであろう作品「感染遊戯」読了。本作品は、四つの連作短編となっていますが、実によく人物や事件が練りこまれていて、最後に集結する形となっていて面白い。

最初の「感染遊戯」は序章的な内容。勝俣健作は警視庁捜査一課の刑事で、世田谷署管内で発生した会社役員殺人事件の件で、姫川玲子にヒントを与えに来るところから始まる。それは、今回の被害者が、勝俣が15年前に担当した殺人事件の被害者の父親だったこと。被害者である息子は、実は父親に間違えられてしまった事件だった。父親は厚生省のキャリア官僚で、非加熱製剤の危険性を知りながら、使用禁止にしなかったがために、加害者の娘が亡くなっていた。

次の「連鎖誘導」は、警視庁捜査一課の刑事である倉田修一の息子が、恋人を殺害した罪で神奈川県警に逮捕される。倉田はいずれは警視庁を辞めなければならないが、起訴されるまでは事件を担当。その事件は32歳の女性と外務省の職員が刃物で刺され、女性は死亡し、男は重傷という事件。実は重症の男は外務省で裏金を作って、殺された女性をかこっていたのだが、犯人は男の悪事を記事で暴こうとした記者だったが、刺された男と女に痴漢を訴えられ人生を棒に振ってしまった川上という男。倉田は退職後川上に重傷で生き残った男の病室番号を教える。

次の「沈黙怨嗟」は殺人事件ではないが凝っている。将棋を指していて、「待った」をかけられたことに怒って殴られたという苦情が警察に来て葉山刑事が事情を聴きに行く。葉山はそこで、厚生省のキャリア官僚が法律を捻じ曲げて、厚生年金の支給を一カ月遅らせていたことを突き止め、その結果薬を飲めなかったがために妻を亡くしてしまった男の心情を知り、官僚OB に憤激する。

最後の「推定有罪」で全てが集結する。まず元刑事の倉田の息子は仮出所後すぐに自殺する。息子は倉田が自分を憎んでいたことを悟っていたのだ。しかし、姫川玲子はなぜ息子が殺人を犯したのかに疑問を感じ、恋人の女性の当時を探ると、女性の父親が勤める会社の社長の息子から暴行を受けていたことが分かる。女性は死にたいと思っていたのではないか。そんな事情も分からずに自分は息子を助けてやれなかったのだ。ちなみに女性の父親は倉田の母親を刺し殺していた。

非加熱製剤の使用禁止処置をとらなかった官僚OB、農水省の官僚OB、外務省職員が相次いで殺され、年金を払わなかった厚生省OBが自殺する。その裏には辻内真人という男が運営するアンマスクというサイトが影響してた。辻内には大友真由という恋人がおり、彼女は16歳の時に非加熱製剤を使って手術していた経験があった。しかし彼女がHIV感染したことに関してほかの男性と関係を持ったのではないかと辻内が疑念を持ち、それを苦に真由が自殺していた。辻内は官僚の個人情報や悪事を連ねたリストを作り、自分が作ったサイトに掲載していた。それを見た者が殺人に走っていたのだった。

最後で全てが収束する展開はお見事というしかない。それぞれの時代の官僚が犯した犯罪的な行為が露見し、私刑が行われるという内容自体は恐ろしいものの、天下りで太るキャリア官僚たちへの警鐘でもありました。

今日はこの辺で。