芦沢央「バック・ステージ」

今回初めて読む芦沢央作品。現在40歳で、2023年「道の道標」で日本推理作家協会賞を受賞し、これから楽しみな作家。そんな吉澤氏が2013年から2016年にかけて小説野生時代に連載し、単行本化の際に序幕と終幕を書き下ろした連作短編「バック・ステージ」読了。

「幕」という言葉が各章につけられている通り、芝居形式の連作短編化と思いきや、序幕と終幕以外は、それほど関係する人間関係が語られるわけではなく、純粋な短編として読んで何ら問題ない構成。

序幕では、とある会社の営業部を舞台に、パワハラ管理職の不正を暴くべく新入社員と先輩女性社員がその証拠集めをするが、折角集めた証拠を入れたカバンを、女子高生たちのかばんと間違えてしまう。これが終幕に続く。

第一幕「息子の親友」望さんはつい最近離婚したばかり。夫の浮気が原因ではあるが、夫は望さんとの性格の不一致を主張。小学生と保育園児の息子二人は望さんが引き取る。長男は滑り止めの私立中学に通うが、性格がおとなしく、友達ができないのではないかと心配。それに比べて次男は元気よく、友達がすぐできる。望さんは長男の性格から私立にこだわったが、そんな妻を夫は我慢ができなかったのだ。そんな長男を最も好きな次男の存在にようやく気付く望さんでした。

第二幕「始まるまであと五分」人気の芝居のチケットをゲットした奥田は、先日別れたばかりの恋人、伊藤さんに芝居見学に誘う。でも彼女は来ないだろうと思い込む。伊藤さんとは中学時代の同窓生で、東京で再会したのだったが、伊藤さんの名前「みのり」を呼んでいいかと言った時に、それは止めてと言われたことがあった。その時は気づかなかったが、中学時代に伊藤さんという女性徒は二人いて、実は再会したのは祥子さんだったのだ。やっと気づいた奥田君は現れた祥子さんに再再開するのでした。

第三幕「舞台裏の覚悟」川合は誰もが出演したい島田演出の芝居の準主役に抜擢され、厳しい舞台練習が始まる。そんな中、濡れ場を演じることになった美人女優と一夜を共にしてしまう。そんな川合に脅迫状が届く。川合には大好きな由香里さんという恋人がおり、彼女に美人女優と寝たことを知られたくないことから、犯人探しを始めるが、直前になって、実は川合監督が仕掛けた罠であることが分かり、島田のすごさを再認識する。

第四幕「千賀稚子にはかなわない」本番前の最終通し練習を録画しているところに、変な男が現れ「千賀は認知症」と話し、録画したSDカードを盗んでいく。その男は序幕で出てきたパワハラ男。千賀のマネージャーをしている篤子さんは、千賀が認知症であることを3年前から気付いているが、それを公には絶対言出来ない。篤子は35年間も千賀のマネージャーをしてきたのだ。変な嘘をついてその場をごまかすが、千賀は自分が認知症であることをすでに気付いており、篤子は恐れ入りましたでした。

終幕は、パワハラ男の澤口が、既に自分の不正の証拠を手に入れており、部下に開き直るが、SDカードを盗んだ証拠が見つかり、ジ・エンド。

何となく芝居に繋がっているのですが、そのつながりは大変弱いもので、若干中途半端な印象を受けた次第。

今日はこの辺で。