安倍晋三元首相の違憲の国葬に反対する

共同通信社が7月30、31両日に実施した全国電世論調査によると、安倍晋三元首相の国葬に「反対」「どちらかといえば反対」が計53.3%を占め、「賛成」「どちらかといえば賛成」の計45.1%を上回った。国葬に関する国会審議が「必要」との回答は61・9%に上った。回答は固定電話425人、携帯電話625人」(2022年8月2日 北海道新聞

 

 2022年7月8日、奈良市参院選の応援演説中に銃撃され死亡した安倍晋三元首相の葬儀を9月27日に「国葬」で執り行うことが、7月22日閣議決定された。政治家の国葬は1967年の吉田茂元首相以来55年ぶりとなり、極めて異例なことである。

 岸田首相は、閣議に先んじて行った7月14日の記者会見で、既に国葬にすることを表明しており、事件から1週間も経たないうちに政府内で国葬が決定していたのである。この判断の裏に何があったかは想像するしかないが、自民党内の安倍派や右派の力が大きく働いたと考えられる。その後に出てきた安倍氏自民党を中心とした国会議員と世界平和統一家庭連合(以下旧統一教会)との関係が明らかになっていることなどが、冒頭の世論調査結果に影響していることが伺え、極めて党略的な決定と言わざるを得ない。

 

 岸田首相が会見で国葬とする理由としてあげたのは、概ね次の通りである。

①憲政史上最長8年8ヶ月、首相の重責を担って、内政・外交で多大な功績があった

②選挙中の蛮行に対し、暴力に屈せず民主主義を守り抜くという決意を示す

③国内外から多くの哀悼・追悼の意が寄せられている

内閣府設置法に、国の儀式に関する事務が明記され、内閣法制局と調整済み

 

 当会は、岸田首相があげた国葬とする理由へ、下記の通り反論したい。

 

①内政への功績であるが、アベノミクスと自賛した経済政策で確かに雇用の回復と株式等資産価値は増加したが、非正規労働の増加により国民の平均賃金は上がらず、先進国中最低の経済成長が続き、国民の経済格差が拡大した。

その他の政策では、これまでの憲法解釈を強引に変えた安保法制や、特定秘密保護法共謀罪法を強行採決で成立させ、戦前回帰的国家体制に近づけ、この結果、国民の分断を大きくしたのである。

外交面では、トランプ前大統領、プーチン大統領と個人的な関係を築いただけで、実質的な成果はなく、逆に極東の隣人である中国・韓国・北朝鮮との関係は改善することなく、韓国に至っては戦後最悪の関係が現出している。

そして何より、長期政権故の驕りから、モリ・カケ・サクラなど、いわゆる「政治の私物化」問題が発覚し、何ら説明責任を果たすことなく、あげくに「桜を見る会前夜祭」問題では、国会で118回の虚偽答弁を行うなど、道徳的に問題のある行為が数多く見られた。

②「民主主義を守り抜く」という理由には、違和感を抱かざるを得ない。容疑者の銃撃理由が次第に明らかになっているが、旧統一教会によって家族と自分の人生が破壊され、同教会と関係が深い安倍元首相を狙った私怨が犯行の動機であるといわれ、たまたま選挙期間中になっただけである。旧統一教会については、宗教団体の名を借りたカルト教団=反社会的集団であり、その実態を隠すために行われた「家庭連合」への名称変更の経緯にも、当時の下村文科大臣の関与が取りざたされている。また、自民党を中心に多くの国会議員が選挙応援を受ける代わりに、広告塔や守護神になっていた事実も浮かび上がっている。何より、多数の国民が国葬に反対している状況で、国民の分断を招く行為が民主主義を守ることになるのか疑問である。

③国内外から多くの哀悼・追悼の意が寄せられているのは、8年8カ月の長期にわたって首相をつとめ、80か国以上の外国訪問を行ったこと、かつ銃撃というショッキングな死を遂げたことによるところが大きいからで、安倍氏の業績や人格を偲んでいるとは限らない。むしろ多くは外交辞令だ。

④戦前~1947年までは「国葬令」が存在し、国葬の法的根拠があったが、現在法的根拠は全くない実情である。政府の言いなりになった内閣法制局が「内閣府設置法4条3項33号」を根拠に、内閣府の所掌事務として「国の儀式に関する事務」を持ち出して、国葬の決定・執行が行政権に属するとしているが、憲法学者小林節氏によれば、

内閣府設置法4条3項33号は、皇室典範(法律)25条で決まっている国葬など

の儀式を内閣が執行する規定であって、内閣が元首相の国葬という新しい儀式類型を創出して良いという規定ではない。だから、今回の閣議決定は明らかに違憲

その上で小林氏は、

国葬なら、国権の最高機関である国会の議決が必要。国会には、そのような大きな権力行使を根拠づける立法権と国費の支出を根拠づける財政処分権があるが、内閣にはそれらの権限はない。安倍政権時に、首相が内閣法制局長官人事に介入して以来、事前の違憲審査機関としての法制局は死んでしまった」(2022年7月27日 AERA dot.)

と述べている。多額の費用が掛かる国葬については、国会の審議と議決が最低限必要なのである。

 

 以上の通り、今回の国葬決定理由には、政治的・社会的・法的に疑問があり、憲法にも抵触する極めて党略的な決定なのである。

政府は「無宗教形式、簡素、厳粛に行い、国民に服喪を強制しない」というが、国や自治体、学校などの公的機関は、それぞれの長の判断で黙とうや反旗の掲揚などを行うことが考えられ、それに倣う民間企業も当然現れる。これにより憲法19条の国民の「内心の自由」が制約され、13条の「個人の尊重」が脅かされる恐れがある。それが結果として、数々の疑惑を残して亡くなった安倍元首相を神格化し、多くの負の側面を消し去る効果は絶大となる。

したがって、このような違憲国葬は絶対に許してはならない。