中山七里「総理にされた男」

中山七里が政治に切り込んだ作品「総理にされた男」読了。若き宰相、間垣統一郎が急病で生命の危機に瀕し、間垣内閣の樽見官房長官が、間垣総理のそっくりさんの役者、加納慎策を強制的に拉致して、総理の影武者として演じることを要請し、慎策はそれに応じることになり、友人の准教授風間と樽見をバックに総理を演じることになる。

本作では、いくつかの首をかしげざるを得ないシチュエーション、例えば、間垣が二世議員で、相当数の親族がいるはずだが、一切現れない。独身の設定ではあるが、特に間垣が死去しても、親族とのかかわりが全くないなど、不自然場面は多いが、こういった影武者小説では目をつむれば、面白い作品でありました。

慎策はもともと役者で、前座で間垣総理のモノマネを売りにしていることから、周りからは完全に間垣総理として不振が持たれない。そんな中で、政治課題として内閣人事局設置法とアルジェリア日本大使館占拠事件という重大政治課題が扱われる。

本作は2015年発刊で、安倍内閣時代。間垣が安倍首相で、樽見が菅官房長官であったことから、どうしても本作が二人をモチーフにしているような錯覚を覚えてしまうので、内閣人事局については現在負の遺産として扱われているが、この作品では内閣人事局による官僚人事の理想像が語られ、違和感があるのですが、当時の官僚バッシング時代では理想的だったのでしょう。この法案を僅差で勝利し、影武者内閣は高支持率をキープする。

そんな時に発生するのがアルジェリア日本大使館占拠事件。ここで問題になるのが、憲法9条問題。慎策が選んだ解決策が自衛隊による救出作戦。ここでも安倍内閣の安保法制改悪に結びついてしまうのですが、自国民の救出には自衛隊の海外派遣を否定しないストーリーで、安保法制三世のような色彩が気になりましたが、中山先生の、ある意味安倍・菅政権への皮肉を込めているようにも感じました。

今日はこの辺で。