伊岡瞬「不審者」

伊岡作品三作目は「不審者」。この作品では不審者が誰かが謎解きポイント。主人公は一人息子を持つ主婦の里佳子で、夫と姑との4人暮らし。そこに、夫が21年前に両親の離婚のために分かれた実兄を家に連れてきて、その実兄が家に住み着くことによって、里佳子の生活リズムが狂いだす。里佳子は、小説の校閲を家でアルバイトとして行っていることから、推理小説のパターンが頭に入っていることも大きなポイント伴っているのがミソでもある。夫の秀嗣はのんき者で気が利かない一方、実兄の優平は隙が無い性格で、里佳子の警戒心は頂点に達する。この辺のスリリングなところが非常に面白く興味を惹かれるところ。特に優平が里佳子の5歳の息子を動物園に里佳子が知らない間に連れて行って、里佳子が神経質な対応が極度に達するところは盛り上がる。この辺で、里佳子の、かつて「リトル」というあだ名がつけられた神経質で小心者の性格が、実は病的ではないかという疑念を読者に与えていくのではないか。鈍感な私は、息子の洸太が実は優平の子供ではないかという推理をたてたが、残念ながら不発。洸太が里佳子の死んだ姉の子供で、里佳子夫婦が養子にしたという事実は最初の方で判明するが、最後の最後で父親が誰かも明かされる。この作品では、まずは不審者が誰なのか?里佳子の母親に暴力をふるっていた父親が川に流され行方不明になり、死亡宣告状態なのだが、本当の死因は何か、同じく里佳子の姉が父親と同じ場所で自殺したのだが、本当に自殺だったのか?優平は何者なのか?など、読者に投げかける謎を多く含んでおり、ミステリー小説としては、非常に優れていると感じた。それらが最後の最後に明かされる結末もなかなか見事でした。敢えて欠点をあげれば、夫の秀嗣ののんきさが若干不自然に感じた次第。

今日はこの辺で。