米澤穂信「Iの悲劇」

スケールの大きなミステリー作品が多い米澤穂信氏が、過疎による地方の衰退と、それを止めようとする市長や役人の努力を描いた「Iの悲劇」読了。本格ミステリーと思いきや、過疎と限界集落を描いた社会小説。地方のどこの市町村もが抱える大きな問題、それが人口減少と過疎化。税収は落ち込み、一市町村では到底賄えない厳しい予算状況。いわゆる限界集落はその最も象徴的な存在でもある。誰も住民がいなくなった「箕石」という架空の地域を舞台に繰り広げられる「Iターン移住者」誘致とその失敗の模様が描かれ、どんな奇策を使っても、それが机上の空論でしかなく、金食い虫にしかならないことを最後に教えてくれる作品。まるで社会実験のドキュメンタリーのようだ。

かつては多数の住民がいた箕石地区。しかし、街の中心部から離れているため、住民が次第にいなくなり、ついには住民ゼロの地区となる。平成の大合併で面積だけは大きくなった「南はかま市」の市長が、この地区に住民を呼び戻すプロジェクトを発案し、実行部隊として課長以下3名の市役所職員が担当に。募集に応じた家族や独身者が、破格の家賃で前の住民の家屋を借り生活し始めるが、多くのトラブルが発生し、その都度担当職員が奮闘するが、移住者たちは一組、二組とどんどん減っていくことに。彼らが離れていく原因を作り出していたのは実は、課長ともう一人の職員。最初から限界集落の復活は、ただただ金食い虫になるだけで、最悪の政策というのを見越して、仕掛けがあったというラスト。

いま「コンパクトシティ」という言葉が流行りだしたが、一か所に住民を集めることによってライフラインのコストを下げ、産業を集中するという方向性が進みつつあるが、今の地方にはその方向しか道がないのか?非常に考えさせる作品でありました。

今日はこの辺で。