中山七里「秋山善吉工務店」

中山七里先生のホームドラマ的作品「秋山善工務店」読了。80歳の老人でありながら、現役の工務店社長として、そして、物言いは大変厳しいながら、名前通り善人そのものの秋山善吉じいさんを中心とした家族のドラマ。話は短編連作となっており、家が火災で消滅し、夫(父親)を失った母と子供二人が死んだ夫の実家である秋山善工務店に身を寄せて、一緒に暮らす中で、善吉じいさんに助けられたり教えられたりする話が5編。

「太一、奮闘する」は転校した小学校でいじめにあった10歳の太一が善吉じいさんから教えを請い、正々堂々といじめ加害者の児童たちと立ち向かう。

「雅彦、迷走する」は長男で中学生の正彦が、ヤクザな先輩と出会って危ない道に入ろうとするが、善吉じいさんの顔の広さですんでのところで留まることができる話。

「景子、困惑する」は、夫に実家に身を寄せたはいいが、肩身が狭く、一日も早く子供たちを連れて独立して生活しようとする母親が、衣料品専門店に就職するが、正社員になろうとする意識が強いあまり、悪質なくれーまの餌食になり抱いたときに、善吉の妻であるおばあちゃんに助けられる話。

「宮藤、追及する」は、家裁が放火だったとにらんだ宮藤刑事が、景子が犯人なのではないかと筋読みし、景子さんを追求する話。この場面でも善吉じいさんに助けられる。

最後の「善吉、立ちはだかる」は、宮藤刑事が放火の真犯人は善吉爺さんではないかと疑い、接近するが、善吉には盤石のアリバイが。それでも善吉の態度の不信感を持ち景子との共犯ではないかとまで筋読み。そんな中、善吉が少女を助けようと落下物の下敷きになりなくなる悲劇。8年後に実は太一が間違って結線したがための事故だったことが明かされるが、それに感づいていた善吉の振る舞いが宮藤を迷わせたことが判明する。

スリラー的要素はほとんどなく、宮藤刑事の馬鹿さ加減が強調されるような場面があるが、警察の恐ろしさがほんの少し垣間見える。すなわち、執念深い刑事が筋読みして、状況証拠なり、証拠改ざんなりして犯人を仕立て上げる構図が、宮藤刑事の行動にも表れている点。犯人が上がらない難事件で、プレッシャーから筋読みしてでっち上げることも、警察権力はやってのけてしまうことの恐ろしさを、何となく感じた次第。勿論本作で中山先生がそれを意図して書いているわけではなく、私の独断的感想です。

今日はこの辺で。