本間龍「転落の記」

ノンフィクションライター本間龍著「転落の記」読了。本間氏については、YouTube番組、「一月万冊」やデモクラシータイムズのコメンテーターとして、最近よく目にし、元博報堂社員で広告業界に詳しいことは知っていたのですが、博報堂社員時代に事件を起こし、懲役経験者であることについては全く知りませんでした。ある時YouTube番組で、「自分の入所中」云々の話をされたことからびっくりして調べたら、確かに詐欺で有罪になり、1年間刑務所に入所していたことがわかり、著書を探して読んだ次第。

画面を見た限り、非常に温厚な方で、とても罪を犯すような方ではないのですが、本書では、副題の「私が起こした詐欺事件、その罪と罰」の通り、彼が犯した犯罪事実が事細かに、正直に語られています。これだけ自分の罪を本でさらすのも、これまた勇気がいったことでしょうが、これが彼の贖罪の気持ちを表す手段だったと思われます。

博報堂北陸支社での営業実績を引っ提げて本社に転勤した本間氏が、担当した顧客からの未収金回収にてこずり、上司や経理部門からせっつかれ、最もやってはいけない「自分の資金で」回収しようと考えたところから、本間氏の詐欺が始まります。未収金1,000万円は自己資金では調達できず、博報堂の株式上場というネタを使って、友人たちから金を借りようとします。友人は簡単に金を出すことを了承するところから泥沼が始まります。最初の二人で1,000万円は用意できるのですが、気持ちが大きくなってしまったのか、愛人は作る、部下にはポケットマネーでごちそうする等々、生活が派手になり、次から次へと友人に声をかけ、更にはサラ金闇金からも金を借りるようになり、ついには会社に入れなくなり、友人から告発されて懲役と相成る。勿論家庭生活は崩壊し、妻と離婚。告発者は二人だけというのは驚きですが、正に詐欺以外の何物でもありません。

終盤は刑務所での用務生活が語られます。受刑者の高齢化が進み、黒羽刑務所の第16工場と呼ばれる高齢者中心の作業所では、認知症が進む老人など、霜の世話もできない受刑者の面倒を見る仕事に従事し、現在の日本の受刑者の実態や、出所後の生活困難なども語られます。

本間氏は、確かに貴重な経験をしたと言えば言えますが、やはり最初の未収金回収についての行動や考えが誤りの出発点。上司に一言いえば、何か懲罰はあるかもしれませんが、会社を辞めるまでには至らなかったはず。家族や友人を失うという大きな代償はなく、また家族や友人が苦しむことはなかったはず。

本間氏は出所後、刑務所の体験をもとに刑務所の実態などの著作や司法行政などの研究も行い、講演などもこなして活躍していますが、友人知人からの借金はすべて返したのか?一日も早く借金を返して、本当の復活を図っていただければと思います。

本書は、まさに転落の記そのものでした。

今日はこの辺で。