映画「マザー」

Netflixにて、日本映画「マザー」鑑賞。映画を観て第一に感じたのは、人気女優の長澤まさみが、よくこんな汚れ役を引き受けたものだ、でした。離婚してシングルマザーで一人息子を育てるものの、働くことがなく、息子を学校にもやらず、ヒモのような男と同棲し、お金を親や兄弟からせびるどうしようもない母親。まさに鬼母である。ヒモ男とセックスして子供がまた出来て、生んでしまう無責任さ。落ちるところまで落ちた生活の中で、息子はその母に精神的に依存して、抵抗することができないもどかしさ。

長澤まさみも、よくこの鬼母を演じましたが、鬼母に依存してしまう息子役も、監督の演出で、そのもどかしさを良く表現しています。

第二に感じたのは、是枝裕和監督の「誰も知らない」に似たシチュエーションであること。

印象的なのは、母親に祖父母を殺してお金を奪って来いと言われて、その通りに実行してしまい、刑務所で養護施設の女性と面会し、彼が「母が好きだから」という場面。ここまで血は濃いのか。

映画自体は、母が妊娠してからの5年間が空白で、その間どうやって生活してきたのかが描かれません。普通であれば幼子を育てることは、あの状況ではできないはずだが、この辺が中途半端と言えば中途半端。

とにかく、長澤まさみの今後の俳優人生に幅ができたのか否か?今後が楽しみです。

今日はこの辺で。

 

清水潔「南京事件」を調査せよ

清水さんは、FOCUSで桶川ストーカー殺人事件を調査し、日本テレビに移籍してから足利事件を追い、その優れた調査報道が高く評価されてきたのですが、本書は日本でも諸説飛びかう「南京事件」の真実を追ったテレビ報道を書籍したもの。

南京大虐殺」は本当にあったのか、あるいは30万人と言われる犠牲者が出たのは本当なのかなど、事件の有無から虐殺人数の大小まで、日本では諸説が飛び交い、保守反動派はその存在までも否定していることは良く知られていることですが、事件があったのが1937年であり、清水氏の調査が2014年であるので、既に77年前の出来事でもあるので、実際に立ち会った人もごくごくわずかであり、記録も限られているがゆえに、桶川事件や足利事件のような、一種現在進行形的な取材は不可能で、数少ない生存者や記録に頼るほかには、調査のしようがないのが残念なところ。

事件に立ち会った日本人の発掘は特に困難ですが、小野賢二さんという市井の研究者の記録が大きな資料となりました。こうした貴重な研究者がいたことは幸運でもありました。

清水さんは、この小野さんの資料を基に南京事件の関係者を探し、彼らの発言を基に「南京事件は実際にあった」ことを報道し、更には一般にはあまり知られてはいない、「旅順虐殺事件」の存在も訴えます。

南京事件で何人が殺されたのかについては結論付けてはいませんが、少なくとも数万人は実際に虐殺した事実があり、南京事件はなかったという言説を否定する。

虐殺事件というのは、その数が重要なのではなく、あくまで無抵抗の兵士なり市民を、たとえ戦争の名を借りてでも許されないことを、加害者としての日本人は認めるべきでしょう。

それにしても、こうした残虐行為が敗戦とともに隠蔽され、生き証人も減っていく中で、ちゃんとした記録を残すことの重要性をつくづく感じる次第です。

今日はこの辺で。

 

韓国ドラマ「君の声が聞こえる」

またまた韓流ドラマに埋没。全18話の長丁場ながら1週間で「君の声が聞こえる」鑑賞。ある殺人事件を目撃した少女が成長して弁護士になり、その殺人事件に巻き込まれそうになった少年が青年となって彼女の前に現れ、二人が殺人犯からの恐怖を受けながら、歳の差を超えた愛を育んでいくドラマ。殺人、弁護士、検事、警察といったサスペンス要素と、目で他人の考えを読むという超常能力も交えて、ある時は喜劇調に、ある時はミステリー調に描いたドラマで、見ているうちに吸い込まれました。

女優さんは、「ミスティ」のキム・ナムジュさんほど美人というわけではないのですが、愛嬌のある表情が秀逸。青年は韓国では人気俳優のようですが、超能力を駆使して彼女の心をつかみます。また、同僚弁護士がお笑いから真剣なまなざしまで、次第に変化していく姿も、魅力的でした。長い話ですが、次がすぐ見たくなるドラマでした。

今日はこの辺で。

毎日新聞新潟支局編「新潟少女監禁事件 - 空白の九年二カ月」

新潟県三条市で1990年11月に発生した少女誘拐事件、この事件が解決したのが約10年後の2000年1月、なんと少女は9年8か月の長きにわたり、誘拐犯に監禁されていたというショッキングな事件でした。本書は、毎日新聞の取材班がこの異常な事件と、それに派生して発生した新潟県警の不祥事を負ったノンフィクション。

先ずは犯人の異常性。高校卒業後ほとんど引きこもり状態となり、二人暮らしの母親に暴力をふるっていたようで、母親はほとんど抵抗することなくその生活に慣れていたことがうかがえます。そんな青年が最初に起こしたのが9歳の少女への強制わいせつ事件でした。この事件で有罪判決が出て、執行猶予となったのですが、その記録が当時の警察のコンピューターデータに残っていなかったのが、監禁事件を長引かせる原因にもなりました。これが警察に不祥事1。犯人が起こした2件目の事件が、三条市で9歳の少女を誘拐監禁した本事件です。誘拐後、柏崎市の自宅に、母親に気づかれることなく自分の2階の部屋に連れ込み、暴力で少女が逃げられないように精神的に追い込み、結果的に10年近く監禁が表ざたにならなかった驚き。更には1階に住む母親が、監禁していることに気づかなかったことも驚きです。ただ、同様の監禁事件で、足立区女子高生コンクリート詰め殺人事件でも、1階の両親が気が付かなかったという例もあり、没交渉の家庭では、可能性も否定はできません。

犯人は、10年近くの期間、少女をお風呂に入れることも許さず、更にはトイレに行くことも許さなかったという異常性。異常なまでの潔癖症ながら、汚物の入ったビニール袋を廊下に並べていたというのですから驚きです。

犯人は逮捕され、心神耗弱などの精神病はあるものの、判断能力ありと評価され、上告審で懲役14年が確定し、2015年に満期出所したようですが、2017年に千葉県内アパートの自室で病死したとのことです。

この異常な事件発覚日に、新潟県警では警察庁の監察があり、監察のトップとして警察庁局長が県警に出向き、同じキャリア警察官僚の県警本部長が接待していたという事実が発覚し、結果的に局長と本部長が処分を受け依頼退職、退職金も返上する事態となった。その他多数の県警関係者が処分を受けたが、彼らの本音は「よりにもよって、なぜこんな日に事件が発覚するのか」と悔しい思いをしたのでしょう。

ですが、県警の発表と、その後の警察庁の調査では、当日の旅館での飲食費や宿泊代、麻雀の図書券等は、参加者が自腹で払ったという報告でした。しかし、警察の裏金作りが一般化していた当時の警察では信じがたいことです。北海道警の裏金事件が発覚したのが2003年であり、この事件が発覚した2000年ごろは、間違いなく各県警では裏金作りの慣習があったはず。これを表に出すことができないので、何とか隠ぺいしたのでしょう。ですから、決して「よりにもよって」ではなく、当然に処分があってしかるべきです。後から「自腹で支払った」などという嘘をつくことこそが、最も大きな不祥事なのです。

20年前のことですが、警察の不祥事は本当になくなったのでしょうか。警察刷新会議が設けられ、本書の巻末にこれからの警察のありようが載っていますが、何か白々しい言葉に感じます。逮捕権という強い権力を持つ警察は、市民にとっても怖い存在です。その怖い存在がメディアを使って嘘情報を流せば、無実の人間も犯人に仕立て上げられる可能性があります。菅政権は、より一層公安・警察権力を政権に取り込み、思想弾圧をも企てている可能性があり、市民は十分に監視していかなければならないと感じます。

今日はこの辺で。

韓流ドラマ「シグナル」

韓流ドラマに凝り固まっている今日この頃。「愛の不時着」を皮切りに、「梨泰院クラス」、「ミスティ」ときて、今回は「シグナル」を一気見。韓国ドラマの1クールは16回、しかもCMなしで1時間~1.5時間の長さがあり、かなりの時間を要しますが、それでも、その面白さから、どうしても先が見たくなり、1週間ぐらいで観てしまうため、他のやることが滞る悪循環。でもなかなかやめられない今日この頃です。

今回の作品は「シグナル」。現在と過去を無線で結ぶというSFチックな話しながら、その不合理性を吹き飛ばす面白さがありました。主人公は3名で、過去で活躍する正義感あふれる男性刑事、その刑事にあこがれ恋する女性刑事は現在の主任刑事でもあります。そして現在の若いプロファイラー刑事。この三人が織りなす悪への挑戦が毎回描かれ、特に過去の正義感刑事には感動もの。どうしても過去と現代をつなぐことから、矛盾のようなもの、すなわち過去を変えることによって現在も変わってしまう場面の描き方が難しいのですが、その辺はご愛敬。女性刑事役女優のキム・ヘスさは、撮影当時45歳超の年齢のはずですが、過去では非常に若々しく、現在でも魅力的な女性刑事を演じています。忘れてならないのが、悪役を演ずる局長さんの憎たらしさ。こういう役が一番難しいのでしょう。

さて、この作品で局長はいなくなりましたが、裏の大物の悪はそのまま、したがって続編が期待されるのですが、今のところ話を聞かないのは残念です。

今日はこの辺で。

清水潔「遺言 桶川ストーカー殺人事件の真相」

清水潔さんが、まだFOCUS時代に出会った「桶川ストーカー殺人事件」を、写真週刊誌記者として徹底取材し、犯人を特定すると同時に、警察組織の陰謀を赤裸々にした本書。

桶川ストーカー事件については、鳥越俊太郎氏の著書などでも描かれていますが、本書が事件に迫った記者として最高の作品ではないか。

ストーカー行為をして、おまけに殺人までしでかすなどは到底許されることではなく、断罪されるべきですが、組織防衛を図り、被害者の訴えをなかったことにするような警察組織の、自己防衛体質も、本来は断罪されるべきなのですが、清水氏などの調査報道がなければ、事件はもしかしたら迷宮入りになり、猪野詩織さんの死は、単なるブランド志向の水商売をアルバイトにしていた女子大生の自業自得になった恐れもあり、警察組織は何も責任を取ることなく済ませていたかもしれないと思うと、恐ろしくなります。

更にはマスコミの責任。警察発表をそのまま垂れ流し、被害者の間違った人物像を作り上げた責任は重大。本書にあるように、記者クラブの記者は、事件記者ではなく、あくまで「警察記者」。警察の公式発表あるいはリーク情報をそのまま流してさえいれば安心というふがいなさ。この傾向はいまだに続いている悪弊で、いつ記者クラブなるぞんざいがなくなるのか。

更には本書に出てこない後日談。被害者遺族は警察を相手取って損害賠償請求訴訟を提訴。当初は警察が適切に対応していれば、事件を防げていたという県警本部長の発表を反故にし、警察が対応していても事件は防げなかったとの論の展開。裁判所も警察に忖度したのか、これを認めたこと。こうした司法の姿勢があるから、いつまでたっても、市民のための警察組織はできないのではないかと思う次第。

この事件をきっかけに、ストーカー規制法ができたことは成果ですが、FOCUSや鳥越俊太郎のスクープの報道がなければ、警察の責任は不問に付されていたことを、私たちは絶対に忘れてはならない。

今日はこの辺で。

映画「薬の神じゃない!」

11月2日(月)は、日曜日と文化の日の間のすき間日。休暇をもらってゆっくり過ごすことに。

午前中は新宿武蔵野館で中国映画「薬の神じゃない!」鑑賞。Yahooレビューでも高得点で、久しぶりに期待して鑑賞し、期待を裏切らない面白さでありました。

上海で強壮剤の販売店を営む主人公の中年男が、骨髄性白血病の患者から頼まれたことから、金儲け目的でインドの白血病ジェネリック薬品を製造する会社から薬品を密輸入し、スイスの清木薬品の1/10の価格で患者に提供する商売を始める。白血病患者は、それまではスイスの薬品を高価格で購入せざるを得ない状況であったが、一躍彼は患者にとっての救世主のような存在に。しかし、当局の取り締まりを恐れて、販売代理店の権利を悪徳業者に売却。その金で縫製会社を立ち上げ成功する。そんなときかつての白血病の仲間が薬を買えなくなったことから病状が悪化し、亡くなることに。今度こそ彼は患者のために危険を冒して密輸入を行い、持ち出し覚悟の価格で販売。しかし、当局に発覚し懲役刑に。

この話も実話に基づくもので、この事件をきっかけにこの薬が保険適用になり、多くの白血病患者を救うことになるというお話。中国にもこうした面白い映画があることを再認識。

今日はこの辺で。