中島京子「長いお別れ」

中島京子「長いお別れ」読了。英語に訳せばロング・グッド・バイ。高齢化社会ですでに大きな社会問題化しつつある認知症患者の急増と、家族の苦労を淡々と描きます。
昇平は80歳の認知症老人。既に10年前から認知症を患い、手のかかる存在。そんな夫の面倒をよく見る老妻。老老介護で二人暮らし。3人の娘のうち長女は夫の仕事でアメリカに住み、次女も嫁いで、46歳にして妊娠。三女は独身ではあるもののフリーライターで忙しく別居。どこにでもあるようなシチュエーションで妻と子どもたちが夫(親)の認知症と向き合います。中島京子の筆致は決してこの状況を暗く描いているわけではなく、淡々と描いているのが印象的。ただ、老妻が網膜剥離で入院して不在となった時の娘三人が初めて知る妻の介護の苦労。正に妻の鏡ではありますが、老老介護では片付かない重い課題が語られます。最後は病気で夫は亡くなるのですが、10年間の介護に意味があったのか。
小川洋子の「明日の記憶」は若年性アルツハイマーの主人公を描きましたが、この作品は高齢化社会に向けての家族のあり方を静かに問うていると感じました。
今日はこの辺で。