浅田二郎「赤猫異聞」、「降霊会の夜」

浅田二郎は本当に見事なストーリーテラーであります。
「赤猫異聞」は伝馬町の牢屋近くで火事が発生し、牢屋も延焼の恐れが出たために、囚人達を解き放つことを話しの端緒にして、見事なストーリーが展開する。
時は維新によって役所仕事も混乱する江戸浅草近辺。親分に裏切られたやくざの若頭、官軍兵士を辻斬りした旗本のせがれ、江戸三大美人の誉れ高いよたかの元締め女。彼らに同情する牢役人。囚人3人が全て帰ってくれば全員無罪。一人でも帰ってこなければ帰った者は死罪。そして3人とも帰ってこなければ牢役人が腹を切ることを条件に解き放たれた3人と牢役人の話しを後日談として語るストーリー展開は浅田二郎の真骨頂。天きり松闇語りに通じるところがある。放たれた3人が生き延びて成功しているのは分かるものの、決して先が見えた話しではなく、最後まで飽きさせないところは、まさに浅田二郎ならではの才能。恐れ入りましたの一言でした。
「降霊会の夜」は、過去の苦い思い出を今でも引きずる男が、ひょんなことから、過去の悲しい思い出を残す人の死霊に出会って、真実を知ると言う展開。
自分の息子を当たりやにして金を稼ぐどうしようもない父親。その息子が死んでしまったことに未だにわだかまりを持つ男が悲しい真実を知るのが前半。
後半は彼が学生になって2人の女にめぐり合うものの、一方は最高の友達、そしてもう一方は出来すぎた女。いずれとも分かれるのだが、本当に彼を愛していたのはどっちだったのか。
この話しも浅田二郎ならではの雰囲気を持つ秀作。現代最高のストーリーテラーの称号は浅田二郎で間違いないと思うのですが。
今日はこの辺で。