森絵都「風に舞いあがるビニールシート」

森絵都作品は「永遠の出口」以来2作目。表題作を含め6作の短編集。いずれも味わいのある作品でした。「犬の散歩」はボランティアで捨て犬を一時預かりする主婦の話。犬の世話があるためにスナックで働き出したというストーリーはちょっと不自然に感じたのですが。
「守護神」はフリーターをしながら大学の二部に通う青年と、同じ大学に通う伝説的な女子学生のやり取りの中で、この青年がとてつもなく文学が好きであることが判明していく話。本当に精一杯生きている青年であり、フリーターという言葉は似つかわしくない表現でしょう。
「鐘の音」は仏像の修復士が仏像に見せられる話。最後の落ちはいまいち。
最も清清しさを感じたのが「ジェネレーションX」。中年にさしかかろうというサラリーマンと、未だ20代の現代風のサラリーマンが車に同乗し、その中での話を中心に展開。若い方がしきりに携帯電話で私用の話をしているのであるが、実は高校時代の野球部の部員が10年ぶりに集合して野球をする打ち合わせ。しかし、この若者は決して仕事をおざなりにするような男ではないことが分かってきて、最後はほろっとさせました。こんな仲間がいたらいいなあー。
風に舞いあがるビニールシート」は、国連難民高等弁務官事務所に採用された女性が、同じくそこに所属するアメリカ人青年と結婚し、彼との生活を通して、恋愛や結婚生活、家族のぬくもり、難民問題を語っています。フィールドと呼ばれる難民の現場に命をささげる夫と、フィールドに踏み込めない妻。最後はアフガンで死んでしまう夫ですが、妻もまたフィールドに行く決心をするところで終わります。焦点がどこにあるのかが少し希薄でした。
今日はこの辺で。